彩都とアヤメ

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「す、優にぃっ?」 何をしているのだろうか。美味しくないって言ったのに。 優にぃが持っているケーキを奪おうとぴょんぴょん跳ねるが、身長差で届かない。 「何をしてるんだ?」 「優にぃはもっと美味しいの食べないとだからっ!ダメなの!」 俺が一生懸命跳んでいる中、本人は聞く気がないのか、今も黙々とフォークを動かしては口に運んでいる。 「優にぃってば!」 「……これは俺のだ。食べようと食べなかろうと、俺の勝手だ」 そう言いながらケーキを口に運ぶ優にぃ。 口調は厳しいのに、目は優しく細められていた。 それをじっと見つめていると、優にぃは咳払いしてから、俺を見つめた。 「食べる以外の選択肢なんて無い。俺の弟が作ってくれたんだからな」 「優にぃ…」 「ありがとう。美味しかった」 そう言って空になった皿を台所に置き、リビングへと行ってしまった。 呆然と立ち尽くすが、力が抜けて、床に座り込む。 …兄が認めてくれた、褒めてくれた。 その事実に、口角が上がる。 「えへへ…」 兄は言うほど自分のことを嫌っていないのかもしれない。 クリームさえも無くなった綺麗な皿を見て、さらに笑顔になる。 「…よしっ」 洗い物を済ませ、ふとリビングを見ると、優にぃはソファに座っていた。 今なら後ろから飛びついてもいいだろうか? (怒られないかな。でももっと仲良くなりたいし…) 意を決して、優にぃの背後から足音を消して忍び寄る。 「かわ…すぎ、と…とい」 「優にぃっ!!」 何か言っているようで、上手く聞き取れなかったが、もうすでに抱きつく体制に入っていたので、そのまま抱きつく。 「おわっ!?」 いつもの優にぃから聞いたことのないような声が聞こえ、嬉しくてソファの背もたれを隔てて座っている優にぃの横へ飛び乗る。 「あ、彩都…っ?」 「えへへ、優にぃ…!大好きっ!!」 横から抱きつく。 「…え」 小さく声を発したかと思えば、ピシッと音が聞こえたと同時に、優にぃが固まって動かなくなっていた。 「……あっ」 そこでようやく、自分が何をしていたか思い直した。 (…やばい。やばいやばいやばい!やらかした!) 舞い上がっていたのだ、優にぃに褒められて。嫌われていないとまだ確信はないのに。 「あ…っ!ごめんなさいっ」 すぐ離れようと、ソファから立ち上がる。 「えっ?」 ぐいっと手首を引っ張られたかと思えば、優にぃに跨る体制にさせられた。
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