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優side
「…彩都?」
呼びかけても返事は無い。どうやら本当に寝てしまったようだ。
「はぁー…」
(とんだ言い逃げだな…)
今までこの想いを言うわけにもいかず、言ってしまいそうになる衝動を抑え込んで今日まで過ごしてきた。
『ねぇねぇ、優にぃっ!』
『あのねっ、優にぃ!』
『優にぃっ!!』
いくら冷たくても、諦めず純粋に慕ってくれている彩都。
常に後ろをついてきて、歩幅が違うのに一生懸命話しかけてきた。
彩都から見ると、随分酷い兄だったんだろう。話しかけても大した反応はせず、交わす言葉はそう多くない。
俺だって出来るならば会話をたくさんして、一緒の時間を共有したかった。
でも話しかけてきてくれるたび、その顔を直視したら、もう後戻りできないような感覚に陥って、眼を合わせられなかった。
あのきらきらと輝く瞳。光の当たり具合によって色が変わる幻想的な瞳。
あの目を見たら、あの瞳に見つめられたら、今まで我慢してたものが全て溢れ出てきそうで。
『優にぃは俺のこと、大切に思ってくれてたんだね』
そう言って小さく微笑んだ。
大切?当たり前だよ。今までどれほどお前を想ってきたか。この想いは誰かに負けるつもりも、そもそも土台に立たせるつもりもない。
彩都の全ては、俺が知っていればいい。俺だけが、あの笑顔を、瞳を独占できればいい。
「…何言ってるんだ、俺は……」
閉じ込めている想いは、日に日に大きくなっていく。もう制御のしようがない所まで来てしまっている。
彩都の言う“好き”と、俺の言う“好き”は違う。
それでも、期待してしまう。あんなことを言われてしまっては。
『だからね、俺も、優にぃのことだーい好きっ!』
その蒼い瞳を輝かせて笑う彩都は、俺には眩しすぎた。
__でも、その煌めきを欲している自分がいる。
彩都の艶やかな黒髪に、そっと口付ける。
「好きだ」
__誰よりも。
「好きだ」
__何よりも。
「好きだ」
__いつまでも。
__例えこの想いが世間で褒められたものでなくとも。
「愛してる」
だから、俺に堕ちて? 彩都。
優side end
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