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「玄ちゃん」
自分の声に驚いて、目を開けると僕は一人でバス停の椅子に座っていた。時計を見るとこのバス停に来てから三分も経過していない。あたりを見回しても思い出バスの姿はどこにも見当たらなかった。
「全部、夢だったのかな」
所詮は思い出バスも都市伝説のようなもの。百パーセント信じていたわけじゃないと自分に言い聞かせて、家に帰ろうと立ち上がりバッグを手に持った。
軽い
明らかにさっきまでより軽くなっている。中身を確認すると人数分入れておいたしおりが一冊入っているだけだった。しおりを取り出して似顔絵のページを開くと、玄ちゃんの似顔絵の横には、俺の夢は学校の先生だ、マンガにするときはかっこよくかけよ、と汚い文字で書かれていた。
「玄ちゃんの字だ」
ほかのクラスメートもそれぞれが自分の似顔絵の横に夢を書き加えてあった。
「なんだよ、全員の夢を漫画にするまで、僕はみんなと一緒にはバスに乗れないってことかよ」
そんなことを独りごちていると、ポケットの携帯電話が鳴動した。電話口で相手はひたすら謝罪している。
「気にしないでください。僕にとっては夢をかなえる時間ができた朗報ですから」
僕に余命を宣告した医師が、別の患者の画像と見間違えていたことを謝罪してきたのだ。今の僕はいたって健康らしい。本当に見間違いなのか、玄ちゃんたちが何かしてくれたのかはわからないけれど、僕にはやらないといけないことがある。まだまだ時間が必要なんだ。
僕はしおりの似顔絵のページを開いて、僕の似顔絵の横に僕の夢を書き加えた。
みんなの夢を叶える漫画を描く漫画家になる
久しぶりに楽しい気持ちで漫画を描けそうだ。でもこれから大変だ。なにせクラスメート全員の夢をかなえる奇跡の物語を紡いでいかなといけないからな。
見上げると夜空に一筋の流れ星が見えた。今日もこの街のどこかに奇跡が降ってきたようだ。
了
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