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1983年10月
「みんな、早く席に着いて。先生がくる前に配っちゃいたいんだ」
「智樹が今日の修学旅行用に、特別なしおりを作ってきたらしいぜ」
「玄ちゃん、それ本当? 智樹のことだから、またみんなの似顔絵とか描いてあるやつだな」
「そうそう、智樹、絵だけはピカイチだもんな。勉強と運動はダメだけど」
「政信は、智樹以上にダメじゃないか」
「うわっ、玄ちゃん、それひどくないか」
「ほら、くだらないこと言ってないで早くくれよ。俺、すっげぇ楽しみなんだよ、智樹の似顔絵とか漫画とか」
光也に急かされて、バッグの中からみんなの似顔絵付きの僕特製しおりを取り出そうとした。
「あれっ」
「どうした、智樹? もしかして忘れた?」
バッグをゴソゴソやっている僕に玄ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「しおり、入ってなくて」
「マジか」
「なあ、もしかしてピエロの絵の描いてある封筒に入れてたりしたか?」
「そう、それそれ。光也、なんで知ってるの?」
「だって、学校の男子トイレの手洗い場に置いてあったからさ。すっげぇかっこいい絵が描いてある封筒だなと思ったんだけれど、集合時間が近かったからそのままにしてきたよ」
そうだった。バスに乗る前にトイレを済ませておこうとして、そのまま手を洗うときに置いてきてしまったんだ。
「僕、急いで取りに行ってくる。もし先生来たら、すぐに戻るって言っておいて」
「もしかしたら、智樹だけ置いて先に行っちゃうかもしれないぜ」
「もう、玄ちゃん、そういうのやめてよー」
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