修学旅行は思い出バスに乗って

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 2023年10月  今年の夏は一際暑い夏だった。十月に入っても気温が下がっていく気配は感じ取れず、この暑さは永遠に続くのではないかと疑いたくなっていた。そんな中、適度に調整された快適な空間で、僕の順番を知らせる番号が掲示された。  5番と書かれたドアを開き、目の前の丸椅子に座ると、パソコンから顔を上げた男性が口を開いた。 「丘谷智樹(おかやともき)さんですね。今日はこの前受けていただいた検査の結果説明になります。ご家族などどなたか一緒に聞いていただいても構いませんが」 「いえ、独身で身寄りもないので」 「そうですか。結論から言わせていただきます。末期の膵臓癌です。すでに多発肝転移も認められています」 「はあ、そうですか。手術になりますか?」 「残念ながら手術も不可能です」 「そうですか、僕に残された時間はどのくらいでしょうか?」 「三から四ヶ月と思っていただければ」  半ば予想はしていたけれど、いざ直接言われると心穏やかではない。残り三ヶ月から四ヶ月。残された僕の時間はそれだけだ。その間になにをやるのか。心残りをなくすためになにをすべきなのか。自分の心の扉を開けるまでもなく、僕の心残りは、その存在をアピールするかのように僕の心のど真ん中に居座っている。 「この心残りを消す方法か」  何もかもお見通しのように、透き通っている青空に向かって独りごちた。そして、僕の口角は自然に上がっていた。  病院の出口を出れば潮の香りを感じることができ、少し歩けば見事なオーシャンビューとなる。大海原を気持ちよさそうに進む船の姿があり、その船を安全に航海させるための灯台がそびえている。この街のシンボルの一つだ。僕はそのまま灯台まで足を運び、階段を上がり展望スペースに出た。海風も潮の香も地上より強く感じる。 「この街でよかった」
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