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2023年12月10日
目の前のドアが開き、僕はバス停の椅子から立ち上がり、ステップに足をかける。冬の刺すような空気が、一段上るごとに暖かな柔らかい空気に変わっていくことにに嬉しさと不安が交互に纏わりつく。
「おう、久しぶりだな、智樹」
「あ、玄ちゃん、だよね? 久しぶり」
「智樹、しばらく会わないうちに老けたなぁ」
「えっ、政信じゃないか。お前は全然変わらないな」
「っていうより、お前が一人老けてる感じだぜ」
「光也、ひどくないか。僕にだって色々あったんだよ」
「智樹は今、仕事なにしてんの?」
「僕はさえないサラリーマンだよ」
「マジか。昔は漫画家になるって言っていたのにな。絵もうまかったから、絶対になれると思っていたのに」
「ははは、そんな簡単じゃなかったよ」
「なに言ってんだよ。今からでも頑張れよ。俺たちはみんな、今でも昔の夢を追い続けているぜ」
久しぶりに会う同級生たち。玄ちゃんや政信、光也だけじゃなく、あのときと同じ雰囲気のクラスメートに比べて、僕一人が老けこんでいる。この四十年の苦労もあるけれど、僕に残された時間がもう僅かしかないということが、僕の老いを加速させているのだろう。
「でもさ、この乗車券、すっごくリアルでいいよな」
玄ちゃんが、僕お手製の乗車券をマジマジと眺めながらつぶやいた。
「ありがとう。でも、みんなのもとにその乗車券が届いたのも玄ちゃんのお父さんが協力してくれたからなんだよ」
「お父さん、元気そうだったか?」
「うん。でも寂しそうでもあったよ」
「盆と正月にはちゃんと帰るようにするよ」
玄ちゃんは少し照れ臭そうにうつむいた。
「あ、そうだ。みんなにこれを配らないと」
僕はバッグの中からピエロの描かれた封筒を取り出した。
「ああ、それ覚えてるぞ。しおりを入れておいたやつだろう」
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