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それは、心に大きな錘を抱えている人が乗車すれば、その錘を置いてくることができる思い出バスという伝説だった。この思い出バスに乗るためには二つの条件があり、両方ともクリアしていないと思い出バスは迎えに来てくれないらしい。その条件の一つは、思い出バスの乗車券をもっていること。これはどうやら自作でもなんでもいいらしい。難しいのは二つ目で命の期限が近付いていることだった。これもこの前余命宣告をされたことでクリアできた。不慮の事故などでいきなり命の期限がきてしまうことが一番恐れていたことだったので、医者から余命宣告をされたときには思わず笑みがこぼれてしまった。
久しぶりに会ったクラスメートたちはみんなあの日の姿のままだった。僕一人だけが五十歳のおじさん、まるで引率の教師のようだ。
「あの、このまま僕もみんなと一緒に」
「それは無理だ。だって俺たちはもう死んでいるんだから」
「でも目の前にいるじゃないか。今話している玄ちゃんは、あの世からきてくれた本物の玄ちゃんなんだろう。これは現実なんでしょう」
「俺たちが本物か偽物かなんてどうでもいいんだ。大切なのは智樹は本物で、現実に生きていることだよ。だから俺たちの夢、お前に託したぜ」
「玄ちゃんたちの夢?」
「修学旅行みたいに、智樹の得意な漫画で叶えてくれよ。俺たちの夢を。現実に生きている智樹には未来がある。時計の止まってしまった俺たちの大切な夢、智樹に預けるからよ」
「漫画でみんなの夢を」
「そうだよ、智樹ならできるって」
「でも、もう僕には時間がない」
「明日、もう一度病院に行ってみな。これは修学旅行を体験させてくれた智樹へのみんなからのお礼だ」
「お礼って、だって僕のせいで」
「じゃあな、智樹」
……修学旅行、楽しかったな
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