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家に戻ってのろのろとスマートフォンを持ち上げると時也さんから着信が三件、メッセージが一件入っていた。
『美聖さん大丈夫なのか? 引き止める余裕すらなくて悪かった。もう会わないなんて言わないでくれ。会いたい。朝は会えないか?』
――こんなことがあっても〝朝〟なんだ。
やっぱり時也さんは何があっても客を捨ておくことなんか出来なくて、俺とずっとそばにいるためには死ぬ以外の術がないんだ。
そう思ったらたちまち虚しくなってきて。
俺は返信もせずにベッドに身を投げ出して、時也さんのメッセージが表示されたままのスマートフォンを胸に抱きしめた。
時也さんとは、店に行くかこの機械でしか繋がりがない。
忘れようと思えば、絶とうと思えば、簡単に二度と会わなくなることが出来る。
――俺さえ決心すれば、時也さんをこれ以上不幸にさせないで済む。
そっとディスプレイに映る時也さんからのメッセージを削除してブロックし、着信拒否を登録した。
これでいい。
俺さえ何も望まなければみんな幸せでいられるんだから。
時也さんから注がれた愛は温かくて、力強くて、トラウマごと俺を愛してもらえるんだって思っていた。
時也さんと一緒なら越えていけると思っていた。
でも――。
やっぱり、俺は何も望んじゃいけない。
俺さえ何も望まなければみんな幸せでいられる。
明日、美聖に謝りに行こう。
もう美聖から時也さんを奪うのはやめるから、どうか無事に目を覚ましてと、もう誰も不幸にしないから許してと謝りに行こう。
そのまま、眠りにつこうと、ゆっくりまぶたを閉じる。
俺が不幸になることは受け入れて生きていかなきゃいけないんだ。
幸せなんか求めないって、二人を殺した後に誓ったはずだ。
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