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何故だか俺は今、ホストクラブに来ている。
いや、何故だかも何も――ホス狂いの姉、神谷 美聖――に〝婚約者の紹介〟だと言われて連れてこられたのだ。
〝婚約者〟も何も相手はホストであって一時の恋人のような存在だろうし、完全に美聖が盲目しているだけだろう。
大手デパートチェーン神谷グループの社長を父に持つ俺たち姉弟は、小さな頃から金に困ったことはなく、美聖も俺もアパレルブランド『プリメア』などのモデルをしている。
美聖は二十八歳で、『プリメア』の女社長・高山 亜美さんの紹介でこのホストクラブ『ネロック』に入り浸るようになり、ナンバーワンホストに入れ上げているらしいのだ。
俺、――神谷 聖――は二十歳で、モデルはバイト感覚で最近始めたばかりだ。
金に恵まれ、見目麗しいとちやほやされて育った俺たち姉弟だが、幼い頃に母を亡くし、仕事で忙しい父は放任主義で、ハウスキーパーの森山さんが親代わりと言った感じで、親の愛情というものにだけは恵まれなかった。
現在特定の彼氏も居なかった美聖が、疑似恋愛の世界であるホストクラブにハマってしまったのも、ある種愛情に飢えているからと言ったところだろうか。
さて、話は戻るが現在煌びやかな空間のホストクラブ内で美聖と二人、VIPルームで忙しなくテーブルを周っているらしいお目当てのナンバーワンホストを待っているわけだけれど。
とりあえず〝大人の高級会員制ホストクラブ〟を謳っている店らしく、うるさいシャンパンコールなどがなくしっとりとした静かな場所であったことだけが幸いだ。
俺は今のところ『プリメア』だけの専属だけれど、美聖は色々掛け持ちしていて忙しい身だが、暇さえあればこの店に足を運んでナンバーワンホストにせっせと貢いでいるらしい。
ご機嫌で色とりどりに飾り付けられたフルーツ盛りのメロンをつまみながら『アルマンド・ブラック』とやらの一本八〇万のシャンパンを一緒に飲んでいるのだが、酒には弱いし、〝婚約者〟と言い張るナンバーワンホストとやらにも一切興味がないので早く帰りたい。
「美聖……。俺もう帰りたいんだけど……」
「なーに言ってんの! これから私の大切な人が来るんだから。聖、イケメン過ぎてびっくりしちゃうかもー」
「はいはい。どんなイケメンさんか知らないけれど、ホストなんていいように貢がされてるだけだよ。早く目を覚ました方がいいんじゃないの?」
そこで――。
静かにVIPルームの扉が開いた。
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