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02.だから結果を残さなきゃ
「ところでさっきの話だけどさ。冷静に考えてみろ、オレたちはもう三十五なんだぜ」
唐突に祥吾が口を開いた。佳史はカップをソーサーに戻す。
「それがなんだっていうんだ?」
意図するところが見えるような見えないような質問に戸惑う。
「人間、諦めも肝心だってことだよ。仕事だって忙しいだろ? もういつまでも夢を追いかけている年齢でもないんだよ」
そう言って祥吾はふたたびブラックコーヒーに口をつけた。
レインキャッチャーにいた客が帰ると、また新たな客がやってきた。テイクアウト用の窓口にもお客が立ち寄り、コーヒーを注文している。マスターも晴人くんも忙しそうだ。
「別に小説を書くのに年齢は関係ない気もするけど」
佳史の言葉に祥吾は首を振る。なにかを確信したように強く。
「夢なんていつまでも見ているもんじゃないぜ。夢に縛られて身動きできないまま夢に裏切られるんだ。それはきついことだぜ」
祥吾はそう言って、ブラックコーヒーを流し込んだ。
「そりゃたしかに、ぼくだって公募にも落ち続けているし、ネットに小説を書き続けているだけのたいしたことのない人間だよ」
カップを手にしたままの祥吾は佳史に視線を向ける。
「でも、楽しいじゃないか。小説を書くってさ」
佳史の言葉に、祥吾は大きなため息。
「楽しいだけじゃダメだって気づいたんだよ」
「そりゃぼくだってわかってるさ」
佳史はそれ以上、言葉が見つからないままに黙り込む。祥吾はさらに言葉を続ける。
「この世界は結果がすべて。だから結果を残さなきゃ」
佳史はそれ以上何も言えない。自分だってたいした結果は出してないから。そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。そんな思いが胸に浮かんだけれど、なにも言えなかった。
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