03.昼休みの残り時間

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03.昼休みの残り時間

「ふうん。出張してきた友達がねえ」  会社の昼休み、野田さんが興味なさそうに言った。 「うん。大学時代の友達なんだよね。この街に出張で来たから会えないかって連絡が来たから、久しぶりに会って話をした」 「それで堀川くんはそのあとなんて言ったの?」  昼休み。会社脇の空き地。街を流れる川が少し遠くの、建物のあいだに見える。銀色の光を反射したゆったりとした流れ。 「なにも言えなかった。だって、言ってることは正しいし」  野田さんは佳史が趣味で小説を書くことを知っている数少ない人間のひとりだ。 「ふうん。でも、別に堀川くんは好きでやってることじゃん」  野田さんはクールな顔つきでクールに言い放つ。いつものように。 「うん」  そんな気の抜けたような佳史の返事のどこかがカンに触ったのかもしれない。野田さんは少しイラだったような声で佳史に告げる。 「じゃあ、その友達が小説書くのをやめたから、堀川くんだって小説を書くのをやめるってわけ?」 「そういうわけじゃないけど……」  佳史はすかさず反論したけれど、言葉が続かない。  野田さんは佳史の言葉を待つ。昼休みの気だるい風が吹く中で。 「でも自分に疑問が湧いたのは正直なところ。小説ばかり書いてる自分は、これで正しかったのかなって」  佳史は昼休みの残り時間を気にしながらそう言った。 「あーあ。昼休みも終わりね」  野田さんが会社の方へと歩き始める。佳史も野田さんのあとを追う。そのとき、野田さんが歩きながら振り返って佳史に言った。 「堀川くん、小説家になるのが夢だって言ってたじゃない」 「うん」 「なら別に書き続ければいいと思うけどな」  そして野田さんはまた前を向き、会社のエントランスに入った。
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