06.すべては無意味の中へと

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06.すべては無意味の中へと

「たしかに友達が言ってることも正しい気がするんです。小説家になれないのに小説を書いてどうする? ネットに載せて自己満足しているだけなんじゃないのか? そんな疑問が浮かぶというか」 「ふうん、なるほどね」  野田さんはさほど興味のなさそうに言った。 「そんなことを考えると、自分が書いている小説がたちまちつまらなく感じられてくるんです。そして、書こうという意欲もなくなるというか……」  佳史のそんな言葉を聞き終わらないうちに、野田さんは会社の方へと歩きはじめた。 「昼休み、終わっちゃうよ」  そんな野田さんのあとを追うように、佳史はついてゆく。  それから唐突に、佳史の前を歩く野田さんが後ろを振り返ることなく言った。昼休みの風に吹かれた野田さんの髪が揺れる。 「そんなに簡単に諦められる夢だったんだ」  後ろを向いたままの野田さんの言葉に、佳史はなにも言えない。  それから来る日も来る日も佳史は仕事を終えるとパソコンに向かった。けれど、その手がキーボードを叩くわけではなかった。真っ白なディスプレイを前にすると、佳史の頭も手も真っ白に固まった。まるで邪悪な呪いにでもかけられたみたいに。  そのたびに佳史はひどい自己嫌悪に陥った。自分はなにも書けない。いや、書けないどころじゃない。今まで書いてきた小説だって、さほどの意味がそこに込められているとは思えなかった。すべては無意味の中へと消えていく。そんな感覚を抱くばかりだった。
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