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僕の呟きを受け止めてから、村木は大きく目を見開いた。「え…?まじで?」「うん、まじ。」僕は話した。入学後間もない時期に、友達ができなかったこと。初めての中間テストがクラスで最下位で、母との折り合いが悪くなったこと。期末前で皆のストレスが溜まっていた時に、目をつけられてしまったこと。そして、今は、毎日を乗り越えるだけで精一杯なこと。
堰を切ったように話を続ける僕を、村木は黙って見つめていた。中学時代あんなに毎日一緒にいたのに、今、彼が何を考えているのかは分からない。
一通り話し終えた僕に、村木は一言こう言った。
「俺は、絶対テラッチの味方だから。」
「………」
「もしまた嫌なことがあったら、話聞かせてよ。眠れないなら何時まででも電話するし、家に居づらいなら俺んち来てよ。」
照れくさそうに、でも真剣な目で、村木は続けた。
「俺ら、まだ友達だろ?」
ドラマとか映画とかで見るような、安易な慰めの言葉じゃない。「そんなの気にしないで!」「きっといいことがある!」取って付けたようなどのセリフより、本心をぶつけてくれた彼の真っ直ぐな言葉に、僕はひどく救われた。
もちろん、明日から僕に友達ができるわけは無い。家では相変わらず気まずい思いをするだろうし、また逃げたくなる時もあるかもしれない。でも、僕はもう、決して一人じゃない。
村木のラーメンはすっかり伸びきっていた。残った煮卵とチャーシューを食べ切って、僕は立ち上がった。「奢るよ。」「え?いいよ、悪いし。」「いいのいいの。」そしてこう告げた。
「久しぶりに、友達のために、金を使いたいんだ。」
二人で並んで、モールの出口まで黙って歩く。窓から見える空には、三日月よりもさらに頼りない、細長い月が、しかし確かに新月から脱したことを主張するように浮かんでいた。ふとスマホを見ると、もうすっかり見なくなったアイコンから、僕を心配する文言が送られていた。画面を思わずスクショして、すぐに消した。そして、そのスマホを優しく握った。もう、モールの外だった。
「じゃあ僕、こっちだから…。」「そっか、逆方向か。」
「「あのさ、」」「「え?」」
突然のハモリがどうしようもなくおかしくて、僕らは笑いあった。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。腹を抱えながら、村木は言う。
「来週土曜、空けといて。鷲見とカラオケ行くから。」
「……うん!もちろん!」
それ以上、言葉はいらなかった。手を振って、お互いの道を歩く。もう、一度も振り返らなかった。
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