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ひるのおと
学校につくまでにも、ざわめきが流れていく。
足音。
話し声。
笑い声。
イヤホンからかすかにもれる歌。
電話口に向かって話すサラリーマンも、がらがらとベビーカーを押すお母さんも、横を走りぬけていく小さな子供たちも。
遠くで誰かが誰かを呼んだ。
太陽が弾ける音がした。
青空は高く、雲は優しく、街は光る。
朝の冬の澄んだ空気。
電車が滑り込む音。人が揺れ、バランスを崩し、画面を見つめ、本を開き、息をする、人の波の音。
友達と二人、ひとつだけ空いた席に見向きもせず話し続ける楽しそうな女子高生も。
荷物をかかえて眠りにつく、大変そうな社会人も。
マーカーと付箋があふれそうな単語帳を片手に追う学生も。
足が踊る。
吊革が揺れる。
アナウンスがなにかを呼びかける。
イヤホンがつけられ、外され、かばんが下ろされ、背負われる。
世界は声で満ちている。
友達に名前を呼ばれて、顔の向きを変えた。
足早に地面を蹴って駆け寄り、ぶつかり、挨拶をして、ただそれだけで笑い合って、歩いていく。
足音も、人ごみの言葉も、友達のなんでもない話も、ぜんぶぜんぶが、今を構成する。
ここから世界が生まれていく。
学校に近づくと、グラウンドから響き渡る運動部の掛け声、校舎の高いところから耳に風を届けてくれる合唱部の歌声、職員室前を通った時には、先生たちのがやがやと騒がしい会話。
楽しくて、退屈してるひまもない学校で、教室のドアをがらりと開けて、友達に「おはよう」と声をかけて。
どさっと荷物を落とす音。
チャイム。
笑い声がまた起こる。
先生の声は、時に子守唄、時に異国語、時に着火剤、時に癒し。
ときどき小さく聞こえるお腹の音。
眠る子、こっそりプリントを進める子、笑っている子、教科書とにらめっこする子。
勢いよく手を挙げる子、控えめに手を挙げる子、窓の外を見る子、友達と目くばせする子。
授業が全部終わって、椅子と机が歓声をあげて。
お昼の時間が好きだ。
蛇口をひねり、水があふれ、冷たさに手をひたして。
ときどき風が吹き込む廊下から教室に一歩踏み込むなり、すっぱい匂いがして、楽しそうな音がして、りんごとみかんと、からあげとたまごやきの匂いがして、誰かがチョコを食べてて、空気があたたかい。
お弁当を広げる。
「いただきます」
世界は楽しいがあふれてる。
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