あさのおと

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あさのおと

 朝早いまどろみの中、一日で一番最初に聞くのは、だいたいせわしない目覚まし時計。  ぼんやりした意識に、その音色はかすんでしまう。  けど、今日は違った。  夢の中で、笑った君。  何時ごろに見た夢なのか、夢には時計がないから、よくわからない。  でも君の笑い声を、今日一番に聞いた声だと思うことにした。  だってそっちのほうが、素敵な一日になれる気がしたんだ。  沈む意識を無理やりあげて、起きて、真っ先に聞くのは、フライパンからあふれだす美味しそうないい(におい)。  そしてお母さんの、「もう七時だよー」ってモーニングコール。  布団をずらしたときの、軽くあたたかい音。 「はーい」  寝起きですこし輪郭がぼやけたその言葉が、今日一番に聞く自分の声。  世界は音であふれている。  ことんとグラスを置いた時の、机とこすれる音。注がれていく牛乳。  透明の中を白が埋めて、たぷんと揺れる。 「おはよう」 「いただきます」  かちゃかちゃとフォークを動かす音。  その間もやまない、野菜を炒める心地いい音。  お母さんが笑う。  そのうち弟も起きてくる。 「おはよう」 「いってらっしゃい」 「いってきます」  世界は声であふれている。  テレビの向こうで誰かが話す。  テレビの向こうじゃない此処で、家族は喋る。  そして時間は回っていく。  朝の支度の音は、すこしどたばた騒がしい。  靴に足をすべりこませる。  履きなれたスニーカーが床をたたく。  がちゃんと重たい音がして、ドアが開く。  今日の世界へ連れていく。 「いってきまーっす」  ドアが閉まる頼もしい音が、背中を押して見送る。
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