飛ばない女の子

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飛ばない女の子

「――では、今日の授業はおわりで〜す、解散っ」  先生の軽快な言葉とともに教室に響き渡る机と椅子の雑音、みんなはそれぞれの持ち物で綿のようにふわりと窓から風に乗るように飛び去っていく。 「お~いファクル、ハンカチで家まで帰ろうぜ」 「えーやだよ、ぶら下がってると疲れるじゃん」 「まあな、お先〜っ」 「あっ……なんでわざわざハンカチで帰るかな」  ボクらの魔法学校ではいま男子の間で箒の代わりに小さい物で帰るという方法が流行っている。ボクは興味ないんだけれど。 「じゃあねファクル君」「またねん」 「うん、またあしたーっ」  箒で帰ってる女の子は大人だなぁ。男子に少し呆れながらもボクはちゃんと箒で窓から外へ出る。  学校の帰りは日が沈んでオレンジ色が横に細く広がっていて寒さを肌で感じる。もう季節は冬。 「魔力で身体覆わないと寒いな……ん?」  ボクが魔力を放出して箒で浮遊していたら学校の正門に一人の生徒が見えた。 「どうして……」  長髪の女の子は何故か。ボクはしばらく目を奪われた。みんな基本は箒に魔力を注いで空を飛んで帰るのが常識なのにどうしてあの人は……。 「う〜ん、んっ、わぁあっ!」  つい気を抜いてしまい女の子の近くに落ちてしまった。 「いってー……」 「……」 「あ、はは、こ、こんにちは……」  彼女は一瞬横顔を向いたけどその表情は眉一つ動かさない素朴なほどの無表情で、すぐ日が沈んだ紫の空へと歩いて行く。 「なんで……飛ばないんだろう……」  ボクは家に帰っても彼女の事がまだ気になっていた。どうしてわざわざ歩いて帰るのかと、そんな事する人はクラスにいない。あと表情も普通じゃなかったような、たぶん……。  次の日、魔法学校には大勢の生徒が箒でやってくる。変わった人の中にはスケボーとか掃除機に乗って来る生徒の姿も。後でどこにしまうのやら。  授業の昼休み、ボクは昨日の気になっていたの話しをクラスの友達に聞いてみる事にした。 「――それでファクル、お前さ先週ネコ見かけてオレの後ろにそっと隠れたじゃん」 「それは、ボクにだって苦手なものはあるよ」 「それもそうだ」 「グララだって、あ、そうだちょっと気になったことがあってさ」 「ん、いいぜ、なんだよ?」 「昨日の帰りさ」 「わかった、またネコ見かけて逃げた!」 「話しは最後まできけよ」 「ははっ、わりぃ」 「大勢の生徒が帰る中、飛ばずに歩いてる人がいたんだ、知らないかな?」 「歩いて帰るか〜、知らないな〜、普通は飛んで帰るよなオレたち」 「だからさ驚いて……知らないんだったらいいんだ」 「ならウィルにも聞いてみたらいいじゃん、隣の席だし」  そうだね聞いてみようとボクは自分の隣の席を見たらウィルは居ない。どうやら別の所にでも行っているのだろうし、昼休み終わるまでグララと会話をして待つことにした。 「――あと十分くらいで授業だからそろそろ」  まさにその時、扉が開くと前髪にくるりと髪を巻いたウィルが帰ってきた。 「お~い、ウィル〜」 「おう、ファクルどした、暇人か?」 「グララと話してた、それよりも聞きたいことがあるんだけど」 「うん?」  ウィルにも昨日の事を話してみた。 「ねえ〜、あたしは知らないわ〜」 「そうか〜、う〜ん」 「めっずらしい人がいるもんね」 「だよね、なんでわざわざって思わない?」 「あたしもそう思ったけど〜……飛ぶのが苦手とか」 「えー、だって飛ぶのは小一の時から習うし一番の初歩だよ?」 「そうよね……あと例えば、親に魔法封じられてるとかだったりして」 「なにそれ?」  ウィルが言うには、虐待する両親の中には子供の魔法を封印魔法やアイテムで封じて辱めるとか。それだったら大変な事だ。だからあんな誰とも心を閉じてそうな表情をしていたのかもしれない……。  これはひょっとしてまずいかもと、ボクは今日の帰りにを待ってみることにした……。  放課後、ボクも珍しく箒を下りて学校の正門近くの茂みに隠れた。なんか変質者みたいって思ったけど、校舎で待ってたら気づかれるかも知れないし昨日の見かけた場所が良いと思ったんだ。 「ふう、もう日が沈んでる寒いな〜魔法まほうっと……」  空が紅い紫色に、いつの間にか目を奪われてジッと見つめていると少し寂しくなってきちゃった。今日はやめようかな……。  気持ちが振れて来ているうちに魔法学校の窓から飛び立つ生徒は居なくなると、足音が。 「あっ、昨日の」  やっぱり今日もどうしてか歩いてる。とんがった魔法使いの帽子に学校の制服、普通は飛べないはずはないからウィルの言うとおり本当に親に魔法を封じられてるのかも知れない。 「よ、よーし、ここは……」  ここは勇気を出して話しかけてみようと、でも、 「やっ、やっぱり変かな、やめようかな、う〜ん」  クラス以外の知らない女の子に話しかけるのは苦手、でもそんなことをしていたらまた見失ってしまう。 「えーいっ、勇気を出せレオ・ファクルッ!」  頬を叩いて、痛いと心で叫び、思い切って茂みから飛び出た。 「あ、あのっ!」
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