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魔王は目が覚めて、
「久しぶりだな」
と頭上から声がしたのを聞いて、
「ざくっ」
という音と感触を、魔王は自分の胸の辺りに覚えた……直後に鈍い痛みも……。
魔王は目覚めた直後に何者かに刺されたのだ。
そして魔王は意識が再び暗黒の世界に戻る前に、自分の霞んでゆく視界の中に自分を刺した何者かの顔を捉えた。
そいつは自ら名乗った。
「私は勇者だ」
――と。
それを聞いた魔王は、声にならない声を絞り出した。
「馬鹿…な……」
――と。
なぜ勇者が私の寝室の枕元に?
勇者は魔王である私が完全に目覚める前にここに来たというのか?
それこそ、馬鹿な、だ。
なぜなら、私は……。
そこで魔王の意識は途絶えた。
――。
「はっ!?」
また魔王は目覚めた。慌てて上半身を起こし周囲を見回す。
勇者はどこにもいなかった。
魔王はホッとして、大声で家来を呼んだ。
「誰か!? 誰か居らぬか!?」
「はーい」
陽気な声を出す小鬼が魔王の寝室に入って来た。
「お呼びですか? いえ。お目覚めですか? 魔王様」
魔王は牙を見せ笑顔で言った。
「おう。今回も復活はうまくいったようだな?」
小鬼は背筋を伸ばして言った。
「は、はい。復活の儀式は完璧に行えました」
「うむ。魔王の復活はこれで何度目かな?」
「私が知る限りでは、これで24度目かと」
「では、前回の23度目は、私はどう死んだのか? 説明できるか?」
「は、はい。魔王様が眠っているところに勇者がやって来て、魔王様が目覚めた直後、あの勇者め、持っていた剣で、魔王様の胸をぐさっと……」
「よく見ていたじゃないか」
それなら助けろよって魔王は思ったが、小鬼ごときが勇者に勝てるはずもななかった。まあ私が勇者に討たれた後どうすればいいのか言ったことを今回も忠実に遂行したのだから、
「ほめてやろう」
と素直さを見せた。
「あ、ありがとうございます」
「で、私の23度目の敗北から何年経ったのだ?」
「380年ほど……」
「ふむ。つまり前回の――、あの恐ろしく行動的だった勇者は死んだか?」
「は、はい。あの勇者は300年ほど前に死んでおります」
「今はどんな時代だ?」
「世の中は平和ボケの時代でございます。勇者だ、魔王は、おとぎ話にもなっていません」
「それはちょっとカチンとくる話だが、まあ、つまり、今の平和ボケした世の中に勇者が誕生しても、そいつは質が低いの評価でいいかな?」
「その通りでございます」
小鬼の畏まった態度に魔王は指を鳴らして喜んだ。
「それはいい。私は――魔王は勇者に殺されては復活を繰り返し、ある考えにたどり着いたワケだ。勇者に勝てないのなら、勇者がいない時代か、それとも、質の低い勇者が誕生する時代を狙って復活すればいいのではないかってな。その時代が――?」
「今です」
「魔王の世界征服は?」
「今でしょ」
小鬼の答えに魔王は満足した。
「好機到来!」
と魔王がベッドから立ち上がったとき、寝室にドカドカと靴音を鳴らして何者かが入り込んできた。
その不埒な者は言った。
「久しぶりだな」
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