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結婚の条件
クソ野郎が。
痴漢野郎をぶちのめしたせいで、警察に留めおかれたけど、こっちが注意受ける事なんて何もねえぞ。
「やり過ぎだよ……。アタシのケツなんて減らねんだから」
半端な時間のせいか人が疎らな駅のホームで、お前はそう言った。
口ではそんな事言うけど、顔が真っ青だったくせに。
「お前の身体に触る奴はぶっ殺すよ。俺が触れねえモンを何で赤の他人に撫で回されなきゃなんねえんだ? 何の権利があるんだよ?」
イラついていた俺は、つい彼女にそう言ってしまった。
「冬弥……。アンタやばいよ。本気で怖い時がある。それだけは……アタシも困るんだよ。このままじゃ警察の世話になる様な事するんじゃないかって……」
……俺はおかしいのかもしれない。
コイツに近づいてくる野郎は、皆殺してやりたい。
「……そこまでしねえよ。悪かった」
疲れた気分で、ホームのベンチに腰掛ける。
せっかく二人で、新しく出来た店に飲みに行こうと思ってたのに。
「アンタさ。アタシと結婚したいって言ってたよね? 本気で言ってた? アレ」
美耶子は困った様な顔で、そんな事を言う。
「当たり前だ。ウソ吐いてどうすんだよ。ウソ吐くメリットがねえだろ」
「だったらお巡りになってよ。アタシを安心させて。そしたら人殺しもしないだろ? 出来ないなら、アタシの部屋から出てって。アンタが何を言おうが、何をしようが、結婚なんか絶対にしない」
この世の誰より愛しい女は、ベンチで座っている俺の前に仁王立ちになって、そんな事を言いやがった。
「……出来ないでしょ? 叔父さんの会社継ぐんだから。アタシにアンタの人生変える権利なんてないし、アンタもアタシに従う義務はない。そういう事だよ。もう会うの止めよう。意地張らなくていいよ」
「……意地なんか張ってねえよ。舐めた事言うな」
悔しくて、つい彼女を睨む。
死ぬほど好きだけど、たまに死ぬほど憎たらしい時がある。
「自分の人生よく考えなよ」
「三歳しか変わらねえだろ。大人ぶるな」
自分がガキなのは承知してる。でもお前以外に、俺が手放したくないもんなんてねえんだよ。
「……行こう。お腹空いた。腹減ってるとロクな事考えないから」
そう言って美耶子は俺の髪を、ぐしゃぐしゃと撫でる。
俺から彼女に触れる事は出来ないけど、彼女なりのタイミングがあるらしく、こうやってたまに触れ合える時がある。
「……わかったわかった。真面目に考えるよ。俺の人生だもんな」
「そうそう。そんでいいの」
今日は大丈夫な日なのか、俺を気遣ってくれてるのか、彼女は手を繋いでくれた。
背がでかい割に小さくて指が長くて……何よりも大事な手。
お前のこの細い手の薬指に、指輪をはめてやるよ。
勿論俺の手にも。揃いの物を。
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