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風呂から出ると、相変わらずニコニコと嬉しそうな先生がいる。
本当に変な女だ。
偏見が入ってるのは承知だが、医者ってのは普通、医者同士で結婚するもんじゃないのか?
「先に寝ててください。仕事が残ってて」
……見りゃ分かるよ。
ダイニングテーブルの上には、俺には何だか分からない書類と、ファイルが沢山あるんだから。
「言われなくてもそうするよ」
髪を拭くのがめんどうで適当にしていたら、先生はわざわざソファに座った俺の所に来て、丁寧に拭き始める。
「明日は何時に出ます? 私は九時からだから、朝食は一緒に取りたいんですけど。貴方は目を離すと、すぐに変な物ばかり食べるから。栄養が偏ります」
……余計なお世話だよ。面倒くさい女だ、本当に。
「七時半に出る」
「じゃあ、それに合わせるからいいです」
「俺はいつまで居候してりゃいいんだ、先生? 自分で家ぐらいは買えるんだよ。別れた嫁がくれた金だってあるんだから」
「勿体ないですよ。それは彼女からの最後のプレゼントでしょう? 本当は手を付けたりできないくせに。貴方がそういう人だってもうわかってますし」
さっき会ったクソ後輩といい、この女といい、俺の事を知った風な口ききやがって、本当にムカつく。
……いや。
自分でも自分の本音が、わからなくなってたのかもな。
ずっとウソばかり吐いてたから、何がウソで何が本当か、俺自身にもわからなくなってるのかもしれない。
「あ。怒っちゃいました?」
「怒ってない。ムカついただけだ」
「じゃあ謝ります。ごめんなさい」
……調子が狂う……。
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