負わされた傷

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負わされた傷

俺……どうしたんだろ? 目の前が白くなった。 怒りで何もかもが弾けて。 身体中の血が沸騰したみたいだった。 「大丈夫!? アンタ、目がやばかった! 早く店の人呼んで! コイツが死んじゃうよ。アンタおぼっちゃま大学クビになるよ!?」 あんなにも不快に感じるはずの女の肌が、快く感じたのはどうしてなのか。 アイツは引きちぎられた服のまま、乳房を晒して俺にしがみついていた。 さっき俺が欲情したオフショルダーの服はボロ切れみたいで、ローライズのジーンズは床に転がっていた。 そしてそのジーンズはクソ野郎の身体から出た血で染まっているし、俺の両手にも血はこびりついている。 ……ああ。俺は……コイツを殴ったのか? 「変な息の仕方してるからヤバいって! うちのおばあちゃんが倒れた時もこんないびきかいてたんだ。救急車……」 殆ど裸のコイツの格好どうにかしなきゃ、店員なんか呼べる訳がない。 俺以外の人間に、コイツの肌を見られる訳にいかない。 慌ててTシャツを脱ぐと、彼女にそれを着せる。 「わっ! 何!?」 「着てろ。乳出してたら不味いだろ。店員呼んでくる。俺の携帯から救急車と警察呼べ」 「わかった」 この状況なら、何があったのか誰でも分かるだろう。 さすがに正当防衛とはいかねえだろうが。 とりあえず店員を呼ぶと、奴らは泡を食って部屋に飛び込んでくる。 彼女が救急車を呼んだのを見届けると、(ようや)く身体から力が抜けた。 「ありがとう。やばかった、マジで。下脱がされた時はもうダメだと思った……。アンタが気がついてくれたから……」 彼女の顔は真っ青でガタガタと震えている。 でも…… 「!? やられてない? 大丈夫だった?」 「本当に……寸前だった……。マジでビビった……。本当ありがとう」 よかった……。間に合って……。 化粧が崩れていても綺麗な目元を見ていたら、痛ましくて涙が出た。 だから思わず、彼女の身体を力一杯抱きしめる。 「よかった……。待ってるって言ってんのに、お前がさっさと戻って来ねえからだろ……」 「ちょっ! 苦しいんだけどマジで」 「あ。ごめん」 それでも彼女から離れる気にはならなくて、俺は泣きながら『美耶ちゃん』の髪の匂いを嗅ぐために顔を埋めた。
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