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「裕太くん、異世界転生って知ってる?」 「ああ、かの有名な」 「あれに似た感じでね。異世界召喚されたんだ。魔王に」 「魔王って言った?」  封印、勇者ときて今度は魔王ですか。もうすっかりファンタジーの世界だ。  僕は考えることをやめて、麻央の説明を一旦すべて受け入れることにする。 「うん。勇者に追い詰められた魔王が残った力を振り絞って私を召喚したみたい」 「そんなクライマックスにJK呼び出すなよ」 「それで召喚された私の身体に魔王が乗り移ったんだけど、そこを聖剣でぐさっと」 「とどめの一撃だけ食らったのか」 「最後の一口もらっちゃった、みたいに言わないで。けっこう痛かったんだから」  そのときのことを思い出してるのか、麻央はううと唸った。  急に魔王に呼び出されたかと思ったら乗り移られて刺されたとは、さすがに不憫だ。 「で、それから?」 「言ったでしょ、封印されたの。仲間の僧侶が持ってた秘宝ってやつに閉じ込められちゃって」 「トイレの鍵開かなくなっちゃって、くらいの感じで言うなよ」 「まあとにかくそういうわけで封印中なんだよね、私」  まるで試験期間中に遊びにでも誘われたかのような口ぶりだ。  封印されてるやつの態度じゃないだろ。いや封印されてるやつの態度知らんけど。 「にしては元気そうだな」 「まあ豪邸に住んでるからねえ」 「は?」 「秘宝の中けっこう広かったから豪邸建てちゃった。料理もベッドも最高級だし快適だよ。出られないだけで」 「何がどうなってんだ」  意味がわからない。  なんでそんな豪奢な暮らしを送ってるんだ。封印されてるくせに。   「魔王が乗り移ったって言ったでしょ? そのせいで魔王の力が私の中にちょっと残ったの。それが結構すごくてさ、なんでも作れるんだよ」 「豪邸とか料理とか?」 「ふっかふかのソファも()えるトランプもね。テレビで外の様子も見られるし」 「通販みたいだな」 「トランプは相手がいないから意味なかったけど」 「急に寂しいこと言うなよ」 「でもおかげでこうして裕太くんと電話もできてる。スマホまで作れるとは思わなかったけどね」  やわらかいクッションソファに身体を沈めながら電話を片手にトランプで手遊びをする彼女の姿が頭に浮かんだ。  てことは麻央は異世界の封印世界の中から僕に電話をかけてるわけか。  無茶苦茶だ、と思うが、そもそも無茶苦茶なのが魔王というものなのかもしれない。
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