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「やっほー裕太くん。久しぶり」 「…………」 「いや無言やめて。わかるけど。さっきまでクサい台詞言ったり泣き合ったりしてたくせに案外すんなり会えちゃって微妙な感じになるのわかるけど」 「僕は泣いてない」  見慣れた制服姿の彼女は苦い顔をする。  それから当たり前のように歩み寄ってきて、当たり前のように僕の名前を呼んだ。  僕も彼女の名前を呼び返す。 「久しぶり」 「それだけ?」  それだけで伝わってるだろうに、麻央は何もわかってませんとばかりに首を傾げた。  もう電話越しではないけれど、それでもやっぱり言葉は欲しいらしい。 「会いたかった」  僕がそう伝えると、麻央は嬉しそうに顔をほころばせた。 「にしても、まさか自分を異世界召喚できるとか灯台下暗しだよね」 「召喚というかテレポートに近いよな。異世界テレポート」 「片道切符だけどね。力なくなっちゃったから」 「だから出てこれたんだけどな」    僕たちの作戦は『魔王の力を全部使い切ろう』というシンプルなものだった。  魔王専用の封印なら、力のない女子高生に戻ればすり抜けられるのではないか。そう考えたのだ。  どうやって封印を壊すかばかりを考えていた彼女もそれは盲点だったらしい。 「でも意外と調整難しかったなあ。何個もトランプ作っちゃった」 「最後にちょうど異世界召喚一回分だけ力残しとかないと帰ってこられないもんな」  しかしさすがは魔王。その辺りはうまくやったようだ。  異世界転生を発動したと同時にちょうどすべての力を使い切り、女子高生に戻った彼女はこうして僕の目の前に立っている。  魔王用の赤信号はJKなら渡れたのだ。 「大したことないね、勇者の封印って」 「どの立場で言ってんだ」 「17年しか生きてないJKも閉じ込めらんないんだから」  彼女は得意げな顔を浮かべる。それからふと辺りを見回した。 「うわあ懐かしいなあここ。私が()ねられた場所じゃん」 「最悪の思い出スポットだな」 「あれ、なにそのお花」    スマホを持つ手とは逆の手に握られたくしゃくしゃの花束を麻央は指差した。  いかにも女子高生の好きそうな映える色合いの花束だ。  
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