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「やっほー裕太くん。久しぶり」
「え、もしかして……麻央?」
僕は耳を疑った。
けれど電話口から聞こえるのは間違いなく彼女の声だ。
思わず手に力が入る。くしゃり、と包み紙が音を立てた。
「あ、私のこと憶えててくれたんだ?」
「忘れるわけないだろ。彼女なんだから」
「おお、これが愛の力か」
「なんかダサいな」
あはは、と麻央は声を出して笑った。
遠くに薄っすらと他の笑い声も聞こえる。近くに誰かいるんだろうか。
「そんなことより今どこにいるんだよ」
「え?」
「探したんだぞ。急にいなくなって」
麻央はちょうど一年前に突然姿を消した僕の恋人だ。
今はもうあまり語られなくなったが、当時はまるで神隠しにでもあったかのようだと小さなニュースにもなっていた。それほど何の前触れもなかった。
それなのにまた突然彼女のほうから電話がかかってくるなんて。
「えっと、ちょっと言いづらいんだけどね」
「言いづらい? え、なんか追われてるとか?」
「ううん、むしろ追われ終わったというか」
「どういうこと?」
さっぱり意味がわからない。
いやもうこの際彼女がどこにいるかなんてどうでもいいか。そんなことより。
「とりあえず会いたいんだけど」
「……あー、それ一番キビしいかも」
「え、なんで」
僕が尋ねると、彼女は少し言いづらそうにしながらも口を開いた。
「ごめん、今ちょっと封印されてるんだよね」
「はい?」
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