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ハイジャック
「そうよ。バカなの?」
ハイジャック犯も呆れた様子だ。
「とにかく双方とも落ち着いて。どうしてこの飛行機をハイジャックして東京へ戻れと言うんですか?」
私は大げさにジェスチャーを交えて、ハイジャック犯に動機を訊いた。
なにか、政治的な思惑でもあるのだろうか。
「だって、東京アトラクションシティの無料パスポートが明日で締め切りなのよ」
ハイジャック犯はポツリと告白した。
「えェッ、何それ。たったのそれだけ?」
「だってもったいないでしょ!」
「いやいや、そりゃァもったいないかもしれないけど。たったそれだけのために、自動小銃で、この飛行機をハイジャックしたの?」
「ええェ、そうよ。悪いかしら?」
あっけらかんとうなずいた。
「うッううゥ……」
思わず私はうめき声を上げてしまった。
なんだ。それは。
「わかったわ。ハイジャックさん」
CA役のネムが声を掛けた。
「はァ?」何がわかるんだ。
私にはまったくワケがわからないままだ。
「東京へ帰ったら機長が東京アトラクションシティへの無料パスポートをおごってくれるそうだから」
「えェ……?」私がおごるのか。
「マジで?」ハイジャック犯のシャオランは満面の笑顔で聞き返した。
「はァ、まァそうですね」
ハイジャックされるよりは安上がりだろう。ここは、いさぎよく引き下がるしかない。
「取り敢えずその自動小銃を下ろして」
なんとか、ネムも穏便にすませようとした。
「マジで機長がおごってくれるんだね。東京アトラクションシティの無料パスポートを?」
ハイジャック犯のシャオランが私を見つめて確認した。
「う、ウン」
私も躊躇いがちにうなずいた。
仕方がないだろう。これ以上、むやみにハイジャック犯を刺激しないためだ。
こうして、ハイジャックは事なきを得た。
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