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転生して『くノ一』になった件
私が目覚めると布団に寝かされていた。周りに誰かがいるようだ。
「うッううゥッ」ここはどこなのだろうか。
ヤケに頭が痛い。そういえば、誰かに階段から突き落とされたんだ。
ぼんやりとした視界が、徐々にクリアになっていった。
「あ、良かった。起きたみたい」
可愛らしい少女の声が聞こえた。目の前にいる美少女が私を覗き込んで微笑んだ。
明るいオレンジ色でお団子ヘアの美少女だ。私と同じ女子高生くらいだろうか。もうひとり少女がいた。
「よォ、大丈夫か。生きてるか?」
こっちの娘はカラフルなメッシュの入ったショートカットの美少女だ。かなり馴れ馴れしくフランクな口調で私を呼んだ。
だが二人とも見覚えがない。
「な、なんなの……?」
どうやら私は生きているみたいだ。
それにしても目の前にいる二人は、かなり変わった恰好をしている。ハロウィンなのだろうか。よく知らないが忍者みたいなコスプレだ。
まさかくノ一じゃあるまいし、何かのイベントなのかもしれない。
「くうゥッ」
ゆっくりと私は上体を起こし、うめき声を上げた。確か誰かに背中を突き飛ばされ階段を落ちて死んだはずだ。それともアレは夢だったのだろうか。
こうして無事に生きているだけでも奇跡的なことだ。
「おいおい、頭を打って気絶していたんだ。あんまり無理をするな」
カラフルなメッシュの美少女が苦笑した。
「えェ、頭を打って?」
頭を触るとタンコブができていた。どうりで頭がズキズキと痛むはずだ。階段を落とされた際にケガしたのだろうか。
おもむろに辺りを見回した。だが見たこともない部屋だ。かなり大きくて古臭い。
だが妙に懐かしい感じがした。田舎のおじいちゃん家を思い出す。
「ンううゥッ、ここは、どこ?」
私は痛む頭を押さえて訊いた。
「どこって、甲賀シティのアジトだよ」
「甲賀?」マジか。
「そうよ。自分の家でしょ」
オレンジ色のお団子ヘアの子が笑って応えた。
「えェッ、私の家ですって。甲賀シティって何なの?」
聞いたことのない場所だ。まるで忍者の里ような響きだ。それに私の家と言われても、まったく見覚えがない。
「大丈夫なのか。咲耶?」
カラフルなメッシュの美少女が私の目を見つめて訊いてきた。
「さ、咲耶。私は咲耶って名前なの?」
可笑しい。私の名前ではないようだ。
しかし瞬時に自分の名前が思い出せない。
どうしたんだろうか。また頭がズキズキと痛んだ。
「はァ、なんだよ。頭でも打って記憶喪失にでもなったのか?」
メッシュの美少女が私の額に手を乗せて苦笑した。
「えッ記憶喪失……?」まさか。
そんなサスペンス小説みたいな事が本当に起きるのか。
しかしどんなに考えても自分の名前を思い出せない。
本当に記憶喪失なのだろうか。
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