『くノ一』咲耶

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『くノ一』咲耶

 しかしどんなに考えても自分の名前を思い出せない。  本当に記憶喪失なのだろうか。 「フフゥン、私はネムだ」  カラフルなメッシュのショートカットの美少女が微笑みを浮かべて自己紹介をした。 「ネム……?」変な名前だが、まったく聞き覚えがない名前だ。 「私はシャオラン。それからこの子はリーリーよ」  彼女は抱いているパンダを紹介した。まるでぬいぐるみのように可愛らしいパンダだ。 「はァ……」パンダのリーリーねえェ。  彼女たちには悪いけど心当たりがない。  そのあとネムとシャオランからレクチャーを受け、私は甲賀女忍者『くノ一』の咲耶だと教えられた。 「甲賀の『くノ一』の咲耶 ……?」  今の時代、『くノ一』なんているのだろうか。にわかには信じられない。  だが夢ではないようだ。  鏡を見せてもらったが、まったく見覚えのない顔だ。思ったよりも可愛らしいので、取り立ててルックスに関しては不満はない。 「ううゥ……」  しかし記憶喪失なんてマンガやアニメ、ラノベではよくある事だが、実際にあるとは思わなかった。  どうやら本当に『くノ一』に転生したみたいだ。 「ほらァこの前、咲耶にジジィを紹介してもらっただろう?」 「ジジィ……?」なんのことだ。 「ダメよ。ネム。ジジィなんて呼んじゃ」  傍からシャオランが眉をひそめて注意した。 「だって、咲耶が『ジジィ転がし』をしろって勧めてきたんじゃん」  ネムはだんだんと感情的になってきた。 「ジジィ転がし?」 「だからダメだって。ネム。『パパ活』でしょ。『ジジィ転がし』なんて、コンプライアンスに違反してるわ」  必死にシャオランはネムの言葉づかいを注意した。ネムに比べると多少、シャオランの方が真面目なようだ。 「ジジィなんて老い先短いんだから、優しく孫を装って、引っ張れるだけ金を引っ張れば良いんだよ」  ネムはとんでもない事を言い始めた。 「うッううゥ……」私は驚きのあまり声を失った。 「キャッキャッキャッ」ネムは楽しそうに手を叩いて笑っている。  それにしてもネムはなんてヒドいヤツなんだろう。  いったい私は、これからどうなるのか。  けれども驚いているヒマはない。
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