ハイジャック

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ハイジャック

「機長。この自動小銃で撃たれたくなかったら東京へ戻れ!」  ハイジャック犯役のシャオランは自動小銃を構えた。かなり重そうだ。重量感がある。まさか審査員や観客らもシャオランが手にしている自動小銃が本物だとは思ってないだろう。 「えェ……?」マジか。 「キャァッ、怖いィッ。ダーリン。助けて」  キャビンアテンダント役のネムはさらに強く抱きついてきた。容赦なく力を込めて抱きつくので首が絞まった。 「ぐッううゥ……、ちょっと待って。クビが苦しいよ。離してェ」  思わず私は苦悶した。首に巻きついたネムの腕が私の頸動脈を絞めつけてきた。息が出来ない。フロントチョークの態勢だ。 「じゃァ、奥さんと別れてくれるの?」  ネムはここぞとばかり訊いてきた。 「えェ、いやァ、今、ここで言う事ではないだろォ!」  こんな窮地で、いったい何を言い出すんだ。  謎のテロリストに機長(わたし)が操縦する航空機をハイジャックされているのだ。間違いなく緊急事態と言えるだろう。 「ぬうゥッ、機長。そういえば何でそんな恰好をしてるんだ。はしゃいでいるのか?」  ハイジャック役のシャオランが自動小銃を突きつけて機長の私に訊いてきた。 「いやいや、これはちょっと」  コントのネタだとは、とてもではないが言えない。明らかに機長が水着で操縦しているのは奇異だろう。  私がジタバタして返答に窮していると。 「そうよ。見ての通りダーリンは、操縦桿を握ると浮かれてビキニになる特異体質なのよ」  代わりにCAのネムが真顔で応えた。 「いやいや、どんな特異体質ですか?」  すかさず私はツッコミを入れた。そんな特異体質など聞いたことがない。 「ダーリンはビキニにならないと、上手く着陸が出来ないタイプの機長なのよ。だから機内では、CAも乗員(みんな)見苦しいけど我慢しているのよ!」  ネムは真剣な眼差しで応えた。 「どんなタイプの機長ですか。みんな見苦しいって」 「なんなの。もしかして、この機長は変態なの?」  ハイジャック役のシャオランは自動小銃を構えながら眉をひそめた。 「いいえ、変態なんて生易しいモノじゃないわ。(まれ)にみるなのよ。この機長は」  さらにCA役のネムは嘲るように応えた。 「おいおい、どんだけディスるんだよ。言いたい放題か!」  コントだと思って。 「とにかく東京へ戻れ。機長。さもないと容赦なく撃つぞ!」  ハイジャック役のシャオランが自動小銃を振り回して命令した。 「ちょッちょっと振り回すな。その自動小銃は。危ないだろう!」  審査員や会場のオーディエンスは知らないだろうが、本物の自動小銃なのだ。危なくて仕方がない。 「東京なんてイヤよ。ホノルルでダーリンと波乗りして遊ぶんだから。ねえェ?」  CA役のネムは私に抱きついて離れない。 「いやいや、ねえェって言われても。ムチャクチャ言わないでくださいよ」  私は恥ずかしい格好をして板挟みだ。  
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