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(あの秘密主義の父がそんな間抜けなミスをするだろうか…)
テレンスは、アイリーンの実像を彼女が大人になるまで隠し通した人物なのだ。それが、易々と細かい情報が他国に流れた現状に、アイリーンは驚いたが、ふと違う思いが閃いた。
(この一見間抜けな情報漏洩が、仮に父の故意によるものだとしたら…)
そう考えると、アイリーンの現状がテレンスにとってはけして不本意な結果ではないということになるのだ。
アイリーンは、自分を見つめているレックスに気が付いた。
「どうしましたか?」
その問いに、
「難しい顔で考え込んでいるあなたも、美しいなと思って見とれていたよ」とレックス。
「また、冗談ばかり」とアイリーン。
「美しい野原や景色よりも、石碑に夢中になっているのは、とてもあなたらしいと思ったんだ」
「小賢しい女と思われたでしょう?」
「賢さは美徳だ。あなたの知性はあふれ出て、眩しいばかりだよ」
「お口がお上手ですこと」
アイリーンは、レックスから顔を背けた。
レックスが吐く言葉一つ一つに反応して、嬉しくなったり悲しくなったりする自分は、どうしてしまったのかと戸惑うのだった。
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