27 夜風

3/5
前へ
/148ページ
次へ
「この庭園は美しいですね?季節の花が途切れなく咲く…。まるで伝説の妖精の国のようですわ」  アイリーンは、花壇のほうに歩みを進めていった。  その後ろをレックスがついていく。 「以前に頂いたピオニーは、もう季節が終わってしまいましたね…。とても嬉しかったです」  そう言ってアイリーンがレックスを振り返ると、彼の固い表情が少し緩んだ。 「あのときもすみません…」  古井戸に落ちた事故が二人の記憶をよぎるが、アイリーンは頭を振って、 「良いんです。私は生きています。あなたが助けてくれたから」 と言って、微笑んだ。  アイリーンは、あのとき井戸の中で沈みそうになる自分が、何か別の力で支えられていたのを思い出した。  不思議と「きっと助けてもらえる」という確信があった。  自分の確信が、レックスを示していたということを思い出して、笑顔になったのだ。  レックスは、辺りを見渡してから数歩移動すると、足元の花を手折った。  その花はヒナギクだった。  それをアイリーンに差し出しながら、 「あなたと出会ったことは、私の人生の中で、最も特別なことだった」 と言った。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加