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「この庭園は美しいですね?季節の花が途切れなく咲く…。まるで伝説の妖精の国のようですわ」
アイリーンは、花壇のほうに歩みを進めていった。
その後ろをレックスがついていく。
「以前に頂いたピオニーは、もう季節が終わってしまいましたね…。とても嬉しかったです」
そう言ってアイリーンがレックスを振り返ると、彼の固い表情が少し緩んだ。
「あのときもすみません…」
古井戸に落ちた事故が二人の記憶をよぎるが、アイリーンは頭を振って、
「良いんです。私は生きています。あなたが助けてくれたから」
と言って、微笑んだ。
アイリーンは、あのとき井戸の中で沈みそうになる自分が、何か別の力で支えられていたのを思い出した。
不思議と「きっと助けてもらえる」という確信があった。
自分の確信が、レックスを示していたということを思い出して、笑顔になったのだ。
レックスは、辺りを見渡してから数歩移動すると、足元の花を手折った。
その花はヒナギクだった。
それをアイリーンに差し出しながら、
「あなたと出会ったことは、私の人生の中で、最も特別なことだった」
と言った。
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