27 夜風

5/5
前へ
/148ページ
次へ
 数歩アイリーンに近づいたとき、彼は自分の負い目を思い出し、アイリーンを抱きしめそうになった自分を制止した。  レックスの胸の内には、自分の城でアイリーンを危険にさらし、大切な人を失わせてしまったという負い目があった。  こんな自分が、アイリーンに愛を乞うなど、厚かましいと思うのだ。  その思いが、アイリーンの瞳から彼の目を逸らさせた。 「私は、あなたに『特別』と思ってもらえるような男ではない」  彼はそう言うと、再びアイリーンに背を向け歩き出した。  アイリーンは、一瞬、レックスが何を言ったのか分からなかった。  ただ、自分から遠ざかる彼の後ろ姿から、自分が彼に拒絶されたと知った。 (ここも私の居場所ではなかった…)  これからもっとこの国を好きになりそうな予感があったのに。  もうここに居てはいけないと言われてしまったのだ。  アイリーンは、自分は彼にとって多少なりとも役立つ存在だと思っていたが、彼から求められていないという思いは、アイリーンを傷つけた。  涙で歪む景色を見ながら、アイリーンは黙ってレックスの背に従って歩いた。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加