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28 強奪
アイリーンを乗せた馬車はガダス軍の一行とともに、イサラスの国境を出るところだった。
アイリーンは、テレンスと同じ馬車に乗っていた。
馬車の中のアイリーンは、父親が今まで見たことのないほどの暗い表情で座っていた。
それと似た沈痛な表情の人物がもう一人、イサラス城にいる。
レックスだった。
イサラス城を出発するとき、アイリーンは使用人たちに見送られて馬車に乗った。皆、口々にアイリーンに声をかけて別れを惜しんでいた。その人の集まりの背後に、一人沈痛な面持ちでレックスはアイリーンを見つめていた。
(そんなに寂しいのなら、なんとかゴネたらいいものを…)
テレンスは内心そう思ったが、まかりなりにも王の立場の人間にそんなアドバイスはできない。
テレンスはレックスとの別れ際に、一歩近づいてその耳元で囁いた。
「今頃、ルーサーが国境沿いに来ているかもしれないよ?」
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