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「遊びにくれば良い」
頭上に声がして、テレンスはぞくりと寒気を感じ、勢いよく顔を上げた。
自分以外だれもいないはずの馬車の向かいの座席に、自分と容姿のよく似た男性が座っていた。
「やぁ」
「…」
テレンスは、全身に鳥肌が立つのを感じた。
しかし恐ろしさはなかった。
「アリンの子孫がやっと、かの地に戻るのだね」
「アリンの子孫!」
テレンスは驚きで声を上げた。
ガダス王家の直系をそう呼ぶのは、王家の一部の人間しか知らない。
「大地はね、あまたの血を吸うことよりも、あまたの幼子たちが駆けることを望む。それが、縁の者ならなお嬉しい」
歌うように向かいの男は言った。
「縁の者…。まさか、あなたは言い伝えられている御方…、初代のフィオナン様でしょうか?」
テレンスは恐る恐る訊くと、
「そんなことなど、どうでもいいさ」
と、見知らぬ男はテレンスを見つめた。
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