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プロローグⅠ (アイリーン視点)
この日、馬車の中でアイリーンの顔色は、自身の花嫁衣裳の純白に負けないほどの蒼白になっていた。
自分たちの馬車の隊列が、何者かに襲われたからだ。
夕暮れ時に、やっと国境近くまで辿り着いたところだった。
馬車が急に停まったと思うと、外で怒声や悲鳴が立て続けに起こった。ときおり馬車に何かが当たったり、揺れたりして、激しい騒動が起こっていることが分かった。アイリーンは、馬車の中で侍女のエマと抱き合って震えることしかできなかった。
震えながらも、
(いったいどこの誰が…)
と、襲撃者について考えているとき、静寂が訪れた。
静寂の中、ゆっくりと馬車の戸が開いた。
その隙間から差し込まれた手は、血塗られており、アイリーンには死神が訪れたと思われた。
そう思った瞬間、馬車に乗り込んできた男は、死神を退けてしまいそうなほど逞しく、瞳は鋭くぎらついていた。
泥なのか血なのか分からないほど汚れたマントに、粗末な衣服を身に纏った男は、
「ガダスのアイリーン王女は、あなたか?」
と、アイリーンに訊いた。
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