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七回を迎えた。私が思っていたことは「帰りたい」それのみだった。
今日は来るんじゃなかったと後悔しかない。
そんなうらぶれた私に気がついたのか、城咲がやっと声をかけてきた。
「どうしたの? なんか疲れたような顔してるけど?」
「いや、最下位争いの試合だからダルいなって」
「そう? いい試合だと思うけど。ああそうだ、手相見て上げよっか?」
そう言えば、城咲は占い師の仕事をしていると言っていたな。今は守備中であることから見てもらうことにした。私は掌を差し出した。
「見料はないよ?」
「いいよ、そんなの。えーっと、悩みがあるね。まず、疲れてるでしょ? 生命線が途中で切れてるよ? 仕事が大変でしょ? 物忘れも増えてない? 頭脳戦をぶった切るようにビシッて線入ってるよ? 財運線も薄いね? お金、あんまりないでしょ? 運命線も枝分かれしてて転職活動も大変になりそうな感じするよ」
城咲の言うことは全てが当たっていた。だが、誰にでもありそうなことを並べて立てているようにも聞こえる。手相を見なくても、そこらを歩いている人に同じことを言えば当たりそうなことを言っているだけにしか思えなかった。
試合が終わった。地元チームは1点差での敗北、一死満塁のサヨナラのチャンスに二連続三振するところが実に最下位争いらしい試合展開であった。
私は城咲に別れの挨拶をすることにした。ヘリウムガス程度の重さ(気持ち)しかない社交辞令を枕詞に添えるのも忘れない。
「今日は楽しかった、ありがとう。そうそう同窓会の連絡先だけど、俺の友人の分の電話番号だけでいい?」
「ちょっとここじゃ落ち着かないからファミレス行こ?」
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