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 今、城咲が行っているのは「宗教勧誘」だ。殆ど付き合いもない同級生に電話をかけて呼び出してこのような勧誘を行うのはよく聞く話だ。 まさか、私がこの当事者になってしまうとはと驚くばかりである。 「これ、ウチの教団のパンフレット! 目通して貰える? 我らがお父様のことが書いてあるんだけどね! 幾度も転生を繰り返してて実年齢は一万二千歳なんだよ! 元は神様なんだけど、人間に転生してずっと俺達人間のために祈って下さってるんだよ!」 駄目だ、話が荒唐無稽の極みだ。こんな話を素面(シラフ)で人に平然と出来るところ、城咲は完全に宗教に心を支配された狂信者だ。もう付き合っていられない。 「すまない、この手の話に興味が持てないんだ。じゃあな」 私がスッと立ち上がった瞬間、隣に男が座ってきた。しまった、さっきトイレに行った時に仲間を呼んでいたか。その男は私の肩を叩き、座らせにかかった。こうして逃げにかかることを想定して通路側の席を塞いでくるのが実に性質(タチ)が悪い。世界一嫌な連携プレーである。 「まあまあまあ、城咲兄弟の話を最後まで聞いて下さいよ」 それから城咲は自分が所属する宗教団体の教義や理念の説明を行った。 「信じる者『のみ』が救われる」という宗教お決まりのフレーズから始まり、「祈れば救われる」からの「救われない者は祈りが足りない」と言うこれまたお決まりのフレーズに続き、「お布施こそが信心の証であり、信心の深さはお布施の大きさでわかる。信心が深ければ深いほど『祈りパワー』を多く受けられる」とまで宣った。「祈りパワーを受けられない信心浅き者は死んだ後に地獄に堕ちて、転生先も虫螻にされて二度と人間にはなれない」と不安を煽ることも忘れない。 私の現在の苦境も「前世で信心が足りなかったから、その罪が因果応報として現世を生きる私に訪れていて、輪廻転生(リーインカーネイション)無限(メビウス)の輪から抜けられなくなってしまった」からだと断言されてしまった。 勿論、その輪から抜け出すためには入信しろとのことだった。お布施は任意ではあるが、先述の説明を聞いていると青天井で制限がない。全てを捧げれば祈りパワーで幸せにしてくれるらしい。ようは「信仰は金」であり、人様の悩みや悲しみに付け込んで脅して金を搾り取りたいだけである。 実に低次元な勧誘である。ただ、自分や家族に不幸があったとか悪い状況が重なったとしたら信じていたかもしれない。先述の言葉に少し足そう、実に低次元で「卑劣」な勧誘である。 欠伸の出そうな下らない御伽噺が終わったところで、城咲は一枚のペラ紙を差し出してきた。
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