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私がそう考えた瞬間、ポケットに入れていたスマホが鳴り響いた。
「あの? 電話出ても?」
どうぞどうぞ。城咲は私に向かって手を差し出した。
発信先は実家だった。実に数年ぶりの電話である。
「もしもし」
「ああ、もしもし? 久しぶり? 元気してる?」
電話の相手は母だった。数年ぶりに聞く母の声は、亡くなった祖母によく似ていた。これだけ母も歳を取ったということか。胸が締め付けられる思いに襲われた。
「ああ、何?」
〈少し前にアンタの高校の同級生の城咲くんって子から、家に電話があったのよ。友達だって言うから番号教えちゃったんだけど、電話とか来た?〉
私は全てを悟った。母が城咲に私の番号を教えたせいで、こんなことに巻き込まれたのか。
城咲が卒業アルバムの住所録の電話番号を見て、私の実家に電話をかけ、母から私の電話番号を聞いたということになる。
母のせいではあるが、母は私の友人関係をロクに把握していない。恨むのは筋違いだ。
そもそも、悪いのは城咲である。
すると、少し離れた席より「オホン」と態とらしい咳が聞こえてきた。ファミレスも電車内と同じで公共の場、話をすることをマナー違反だと考える人がいるということか。
その瞬間、脱出の手段が閃いた。
「ゴメン。今ちょっと、ファミレスで飯食っててさ!」
〈あら、かけ直す?〉
「いや、俺が店出る。電話切っちゃ駄目だよ?」
いくらこいつらが常識知らずでも、通話中の人間を邪魔するようなことはしないだろう。
通路側の席を塞いでいた男は立ち上がり、道を空けた。これが唯一の好機だ。
私は素早く通路へと出て、テーブルの上に札一枚を置き、脱兎の如く逃げ出した。
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