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久し振り(人間編)
「久しぶり!」
朝から元気に肩を痛いいくらいに叩かれた。
「おはよ~。」
美奈子は肩を叩いてきた香に返事をする。
香はいつもテンション高め。美奈子は低血圧で朝は弱いのだ。
香「ねぇねぇ、あれから何してたの?」
美奈子「あれからって、昨日別れてからの事?」
そう。香は半日会っていないと次の挨拶は久し振りになる。
確かに久しぶりの時間の定義は人それぞれだけれど。
香はあまり人づきあいが得意ではない美奈子のたった一人、大学でできた友人だ。
そんな香と今日も放課後少しおしゃべりをしてから家に帰った。
集合ポストを開けるとはがきが届いていた。
『久しぶり。元気でいるかな。』
美奈子のこの一人暮らしの住所を知っているのはたったひとりの家族である母親しかいない。
香はニャインや電話で済んでしまうのでこのアパートを知っていても正確な住所は知らない。
そもそも、母親も荷物を送る時に必要だから知っているだけで、連絡はメールや電話だ。
はがきは書いてこない。
「誰?」
美奈子は集合ポストの前で葉書を裏返して名前を確認した。
「嘘!」
高校の時に付き合っていた涼からのはがきだった。
『ニャイン繋がらないし、メールも電話もつながらない。美奈子のお母さんに住所聞いたんだ。近々遊びに行くよ。』
はがきにはそう書いてあった。
『おかあさん、住所を軽々しく教えちゃだめじゃん。』
美奈子はこんな田舎の大学までようやく涼から逃げてきた意味が無かったことを知った。
母親には涼とは高校時代に付き合っていた事しか話していなかった。
涼が粘着質で高校生の時でも怖いと思う程の危険をはらんだ人間だと知って、そっと別れたのだ。
母親には心配すると思って、言っていたなかった。
美奈子は恐怖で身体を固くした。急いでアパートの自分の部屋に入って鍵を閉める。
念入りにチェーンまでかけてようやくほっとしてベッドにドサッと身体を投げ出した。
「久しぶり。」
何故か涼の声がすぐ後ろでしている。
美奈子は恐る恐る後ろを振り返ると、何故か涼が部屋の中にいるではないか。
美奈子「なんで入れたの?」
涼「こんなアパートの鍵なんて針金で簡単に開くでしょう。中に入って普通に鍵を閉めておいたんだよ。」
確かに美奈子の住んでいるアパートは古くて鍵も簡単に開きそうだったが、だからと言って鍵を開ける人間はいないだろうと思っていた。
美奈子は慌てて外に出ようとしたが、自分でご丁寧にチェーンまで掛けてしまったので焦ってなかなかドアが開かない。
涼「なぁ、何で何も言わずにこんな田舎に来たんだよ。俺の事、嫌いになったのか?」
涼が怖かったなどと本当のことを言えば何をされるかわからない。
美奈子「ご、ごめんなさい。」
涼「いいさ。こうして会えたんだ。久しぶりにゆっくりと色々しようぜ。」
美奈子「悪いけど、今日友だちが来る予定なの。」
美奈子はとっさに嘘をついたが、それは却って悪い結果を呼んだ。
涼「そうか。だったら、思い残すことなく早く終わらせようぜ。」
美奈子はまだ未経験だった。
高校生で経験する子は多いが、美奈子は結婚するまでは綺麗な体でいたかったし、その相手は涼ではないと薄々思っていた。
だが、涼は付き合っている時に執拗に体を求めた。
それもあって、涼には知らせずに、高校の卒業式と同時にこのアパートに引っ越したのだ。
涼は美奈子の腕を掴むと、着ていた服を引き裂いて、事に及ぼうとした。
男と女の力である。
それでも美奈子は必死に抵抗した。
全裸にされて、それでも激しく抵抗する美奈子を大人しくさせようとして、涼は思わず美奈子の首に手をかけていた。
ようやく大人しくなったと思った時には、美奈子は息をしていなかった。
生きている美奈子の身体があんなに欲しかったのに、息をしていない美奈子のぐったりとした身体は急に怖く感じた。
涼は美奈子をそのまま置いて、急いでアパートから出て行った。
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