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久し振り(解決編)
「美奈子、美奈子しっかりして。今救急車呼んだからね。」
香は美奈子が全裸で倒れていたので慌ててベッドの上から掛布団を引きずり下ろして美奈子に掛けた。
でも、美奈子が息をしていないのに気づいて、救急車を呼び、救急隊の指示で美奈子の心臓マッサージを始めた。
美奈子はお父さんと一緒に宙に浮いてそれを見ていたのだが、香の心臓マッサージのおかげで心臓が無理やり動かされると、スゥッと自分の身体に戻ってしまった。
お父さんは宙に浮きながら安堵した表情で美奈子を見ている。
美奈子は目を瞑っている筈なのだがお父さんの姿は見えていた。
やがて、救急隊が到着して、AEDで美奈子の心拍を再開させると同時にお父さんは美奈子に手を振って消えて行った。
美奈子は真暗な世界に入り、眠ってしまったようだった。
美奈子は白い天井を見て、
『あぁ、病院だ。』
と、思った。
香「美奈子!気が付いたの?久しぶりだねぇ!」
涙ぐみながら香がいつもの挨拶をしてきた。
美奈子「香・・・」
香「本当に久しぶりなんだよ!一週間眠りっぱなしだったんだから!」
急いで医師が呼ばれ、もう心配ないと言ってくれた時には、美奈子も病室を見回して、母親が泣きながら美奈子を見ているのにも気づいた。
母「ごめんね。美奈子。私があんたの彼だと思って住所なんて教えちゃったから。」
美奈子「おかあさん。確かに。でも、涼が変な人だって言っておけばこんなことにならなかったはずだから。」
美奈子「ねぇ、香。なんで、あの日私の部屋に?」
香「なんだか嫌な感じがしたのよ。お喋りしている時から変な不安感があってさ。で、美奈子のアパートに向かっていたら前に見せてもらった変質者っぽい元カレが大慌てで美奈子の部屋から出てくるの見たの。で、ちょうど近くにいた交番のおまわりさんに慌ててる男の職質頼んで、私は急いで美奈子の部屋に行ったわけよ。」
美奈子「それで、すぐに掛布団かけて救急車呼んで心臓マッサージしてくれたのね。」
香「え?美奈子その時、息してなかったよね。」
美奈子「あぁ、お父さんが来ていてねぇ。一緒に上から見ていたんだよ。香が来てくれなかったら危なかったよ。あの世に行くところだった。」
母「え?お父さんが?」
美奈子はあの日に起きたこと。きっと時間的にはものすごく短い間に起きたであろうことを、香とおかあさんに話した。
香に聞いたところによると、交番のおまわりさんが職質しながら、涼は救命救急中の美奈子の部屋まで連れてこられて、殺人未遂の現行犯で逮捕されたと言う。
おかあさんは香に心からお礼を言いながら涙が止まらない様だった。
ちょうどあの日はお父さんの命日だった。お母さんは実家でお線香をあげて、それに呼ばれてお父さんはこの世に来ていたので、美奈子の危機にも気づいたのだろう。
お父さんが美奈子をつなぎとめていてくれていなかったら、美奈子はあの世に行っていたかもしれない。
「久しぶり!」
いつものように香が朝から大きな声で、美奈子の肩を叩きながら挨拶してきた。
「久しぶり。」
今日は、退院してからしばらく実家に帰っていた美奈子が復学した日だ。
美奈子も香にそう挨拶して、自分がこの世に残れたことに感謝した。
本当は涼から逃げるために入った大学で、あまりそれまで楽しんでいなかったのだが、せっかく生き返った命なのだからもっと明るい気持ちでこれからの大学生活を送ろうと心に思った。
前向きに生きていればもっと友達も増えるだろう。
でも、二人の
「「久しぶり」」
の声は、田舎ののどかなキャンパスに毎日明るく響くことだろう。
【了】
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