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2 再会
僕の幼馴染、サナギはあの頃と変わらぬ微笑みを浮かべたまま僕の隣に座った。軍服の裾を掴み、僕の頬をつまみ、「似合わないねえ」なんて軽口を叩いている。あまりにも現実離れしている。こんな唐突に夢が叶えば、動揺を隠すなんて無理だろう。全身が震えて瞳が潤み出してしまう。
「サナギ、今まで何してたんだよ。ずっと探してたのに……」
「知ってるよ。心配かけてごめんね」
積もる話もあるだろうと溢れ出そうとする言葉が強制的に止まる。サナギは正面を見据えている。僕の脇腹に何かが当たっている。
拳銃が、当たっている。
「昔、一緒にデートプラン考えたよね」
「……サナギ?」
「子供っぽくて安っぽいデートプラン語ってただけどさあ。あれ結構楽しかったよね」
正面を見据えたまま、微笑みも崩さずに言葉が紡がれる。それが何処か機械のような、チグハグな印象を僕に与えた。また体が震え出す。寒気のせいでもなく、感動のせいでもない。
「まあ、そのプランも全部燃えちゃったけど」
恐怖している。
目の前にいるのは幼馴染そのものなのに、脳内で警報が鳴っている。あまりにも危険だと、僕の全てが全力で訴えかけている。
サナギは紙に何か書き出した。
その間も拳銃から手を離さず、指がトリガーにかかったままだった。白くて細い指に似合わない、無骨な暴力装置が僕の命を握っている。その事実が心を底冷えさせる。
『私は明日、革命を起こすのだ!!!』
汚い字で書かれたその文字を読んで、僕は何を言えばいいか分からなかった。動揺と恐怖と困惑が喉に蛇のように絡みついて離さない。
「口にするとなんか恥ずかしいでしょ?」
「……親に、やれと脅されてるのか?」
「違うよ。正真正銘、私の意思だよ」
自信満々というように胸を張り、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。あの時と何も変わっていない。
「父さんと母さんが成し遂げられなかった計画を、私が完遂するの。格好良いでしょ?」
「……じゃあ何で、それを僕に話したんだよ。僕は軍人だぞ。手伝う訳無い」
幼馴染だから信頼してる、なんて曖昧な理由は聞きたくない。革命の惨禍を映像で見せられた僕にとって、その無邪気な宣言は唾棄すべき物だ。絶対に止めなければならない。
止めなければならないのに、目の前の幼馴染があまりに楽しそうに計画を全部バラしていくから、これは『いい計画』なのだという思いが生まれそうになる。犯罪宣言とは思えない、まるであの日のデートプランを語るサナギのままで、油断すれば呑み込まれてしまいそうになる。
「それで次はこの拠点を破壊して……」
「止めてくれ。もう、声も聞きたくない」
「……この計画、止めたい?」
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