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前線基地に入る前に僕は適当な理由をつけて隊列から抜けた。ナカサには甘い物の食べ過ぎで吐きそうだから先に行ってくれと伝言しておいた。怪しまれるだろうが一瞬でも時間が稼げるなら御の字だ。
「すまない、ナカサ……」
革命の傷跡が残るこの地を懸命に走る。
遮蔽物が無いからすぐに僕が逃げ出した事に気付かれる。もう軍には戻って来れないかもしれない。後悔はないなんて言うには、この仕事にやり甲斐を感じすぎていた。
銃火器を捨て、防弾スーツを脱ぐ。装備を外して身軽になったこの身を目的地まで運んでいく。ポケットには拳銃と煙草だけだ。心もとないが仕方ない。捕まってサナギに会えなくなる状況に比べれば、死の恐怖なんてなんて事はない。
ただ走って、走って、走り続けた。
いつの間にか後ろには人一人も見えなくなって、僕は一人ぼっちになった。荒地にしっかり根を張った雑草が風に吹かれ、メロンの赤肉部分のような優しい空が僕を見下ろしている。息を整えていると目の前を丸い人工物が通った。それはこの場所にはあまりにも不適切で、故に何よりも美しかった。
シャボン玉を作っているサナギが立っていた。
どうやら時間には間に合ったらしい。
「久しぶり。一日ぶりだねえ」
「……正確には二十八時間と十九分ぶりだな」
「細かい事はいいんだよ!」
このまま未来を考えず、子供の時みたいにお喋り出来たらどんなに幸せだろうか。でも僕は大人になって、サナギは少しだけ馬鹿になった。
もう、戻れはしない。
これを軍人としての最後の任務にしよう。
「サナギ、聞いてくれ!」
「……ね」
呟く声が風に掻き消される。
ただ、その姿だけは視認出来た。
僕の目が腐ってなければサナギは泣いていた。
「ごめんね、ハイネ」
警報が鳴り出した。
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