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「それって……もしかしてお母さん……?」
おじさんサンタが頷く。
「ワシも声をかけられてね……わけを聞いたら娘さんと喧嘩をしてしまったと言うんだ。この寒いなか、ずっと探し回ってたよ。きっと今も探し回ってるんじゃないかなぁ。それで、もし見かけたら娘はお金を持っていないから食べ物を恵んでほしいって頭を下げてお金を渡してきたんだよ。見ず知らずのワシに、さ」
おじさんサンタはそう言って、優しく微笑んだ。
「ワシに君の好物を教えてくれたそのひとは、だれより君を想ってるひとだ。このご馳走はぜんぶ、そのひとからのクリスマスプレゼントなんだよ」
おじさんサンタは黙り込んだ私に優しい声で続ける。
「家族なんだから、ぶつかることはあって当然だ。家族だからこそ素直になれないこともある。小言ばかりで、おせっかいで、うざいって思うこともたくさんあるだろう。だけどね……それは、君を愛してるからなんだよ」
「愛してる……?」
私は呆然と聞き返した。
「そうだよ。愛してるからうるさいんだ。愛してるから、ぶつかるんだ。どうでもいいと思ってたら、喧嘩にすらならないんだよ」
お母さんの小言は、私をきらってるからじゃなくて、ただの愛情の裏返しだったんだ……。
お母さんは、朝起きてもいたりいなかったりだけど、必ず朝食と夕食は用意してくれていた。
それなのに私は……なんて言っていた?
たまには外食がしたいだとか、いつも同じ味でつまらないとか文句を言ったりした。それだけじゃなく、わざと残して食べなかったりもした。
「私……最低だ。お母さん、疲れてる中頑張って作ってくれてたのに」
泣きながら、焼きそばを口に運ぶ。
この焼きそば、お母さんのものとぜんぜん違う。でも、昔お母さんに連れていってもらったお祭りで食べた味とよく似てる……。
そうだ、思い出した。まだ小学生に上がる前、屋台で食べたこの焼きそばを気に入った私が、お母さんに家で作ってってせがんだんだ。
それから、お母さんは焼きそばに必ず目玉焼きと青のりをたっぷり入れてくれるようになった。
「お母さん……」
途中から、味なんて分からなかった。拭っても拭っても、涙はとめどなくあふれてくる。
「お母さん……」
――お母さん。お母さん。お母さんに、会いたい……。帰りたい、家に。
「……おじさん、私……お母さんにちゃんと謝りたい……。私、お母さんにすごいひどいこと言った。親ガチャ失敗したとか、お母さんなんて大嫌いとか……。本当は、お母さんがずっと頑張ってること、ちゃんと知ってたのに……」
ぽろぽろ涙を流しながら懺悔する私を、おじさんサンタは朗らかに笑って慰めた。
「ホッホッ。君はまだまだ子どもだ。わがまま放題やって、転んで、後悔して、それでいいんだよ。そうやって子どもは少しづつ大人になっていくのさ」
「……お母さん、許してくれるかな」
不安げに呟く私の頭を、おじさんサンタが優しく撫でてくれる。
「心配ないさ。お母さんも、成長途中なんだから」
「え?」
「初めから立派な親なんていないさ。親だって心があるひとりの人間。親だって子供を育てながら、子供と一緒に成長していくんじゃないかねぇ」
「……そっか。お母さんも……私と同じだったのかな……」
「さてと。そろそろ、聖夜のベルが鳴るねぇ」
「え?」
そのときだった。一瞬、世界に静寂が落ちた。
そして――ゴーン、ゴーン、と大きなベルが鳴った。まるで世界中をたたえるような音が、聖なる夜に優しく響いた。
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