付き合った(仮)

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付き合った(仮)

「あれ?翔義兄はー?」 「ああ、翔くんならもう出たわよ。珍しいわね。最近ずっと恋と一緒に出ていたのにね。もしかして、愛想つかされることしたんじゃないの?」 愛想つかされること……した覚えはないけどなぁ。 「翔くんは貴方のこととても好きみたいだし、そんなことはないと思うけれど」 ふふふっと笑う母。 過保護だなぁと思うし、好意も感じる。 とてもは大げさだけれど、義兄弟としては仲のいい方だなとは思うかな。 母の作ってくれた朝ごはんを食べて、さっさと準備をし、家を出る。 学校へ行くのはいつも徒歩だ。 三十分くらいで着く。 「よっ、恋!」 校門前に着くと後から来たのか、後ろから軽く肩を叩かれる。 「ああ、おはよ。凛」 「ところで昨日どうだったんだ、翔先輩。様子変とか言ってただろ」 「あー、それね。よく分からないんだよ。距離近過ぎていたくらいなのに、今日の朝は気のせいかもだけど、距離取られてるし」 「いいじゃん!最近はうざいみたいなこと言ってなかったっけ?」 うん、まあ、最近は構われることが多くてうざいなぁと思ってたけど、距離を取られたらとられたでなんか寂しい。 って何思ってるんだ、俺。 前のような程よい距離感がいいって思ってたはずなのに、距離を少しとられたくらいで、寂しいなんて。 「……ひょっとして、恋」 「え?なに?」 「うーんや、なんでもない。翔先輩に距離置かれてるんだったらちょうどいいや。放課後、デートしようぜ」 「なんだそれ、変な言い方するなよ。普通に遊ぶんだろ。分かってるって」 「どうだろーな」 珍しく真面目な顔で凛が答えるから、冗談がわかりにくい。 放課後のチャイムがなると、凛が真っ先に俺の席に来る。 今日は翔義兄、来ないんだ。 どこか、ガッカリしている。 懐かれていた犬にそっぽ向かれたみたいな…… 変な例えだけど。 「そんな顔してないでさ、パーと遊ぼうぜ!」 微妙な顔をしてる俺に気づいたのか、元気づけようと、明るい声を出す。 凛は、不良っぽいが、少しぐれているだけで、根はいい奴だ。 人のことをよく見ているし、気遣いも出来る。 「そうだなー、カラオケとか?」 「俺下手なの知ってるだろ……」 「まあ、音外れてて逆に面白いからいいじゃん!大声で歌った方がスッキリするし!」 確かに、凛のいう通り大声で歌えばこのモヤモヤした気持ちも晴れるかもしれないな。 俺が音痴なのと逆に、凛は歌が上手い。 聞いていて、心動かされるような歌声だ。 カラオケで思いっきり二人で歌う。 J-POP中心かな。 交互に歌ったり、一緒に歌ったりとしていると、あっという間に二時間。 さすがに喉も疲れた頃だ。 「そろそろ出る?」 「……」 出ようとするとりんの腕が伸びてきて掴まれる。 力強く引っ張られソファに押し倒される。 「え?ちょっと、凛?」 「……俺の方が好かれているんじゃないかと思っていた。最近、翔先輩がうざいとか愚痴も聞いたし。かと思えば、今日一日上の空。構ってこなかったらそれはそれで、恋は翔先輩のこと気になってるし。もしかしてさ、翔先輩のこと好きなんじゃないの?」 「は……?何言ってるんだよ。俺が翔義兄のこと、なんて。そもそも男同士だし、義理とはいえ兄弟なんだよ。からかってるんだったら、本当に怒るから」 「からかってる訳ないだろ!男同士でもなんでも好きになる人はいる!少なくても俺は恋のことが」 言葉の続きは分かる。 今まで全然気づかなかったけど、凛の熱が籠った目を見れば。 逃げ出したい。 そう思ったけれど、凛の熱が籠った目にからめとられ、身動きが出来ない。 人の好意ってこんなにも、重い。 「恋のことが好きだ」 ああ、終わってしまった。 この瞬間、確かに何かが終わった気がした。 友情かな。 「凛は俺の事、恋愛対象としてみているってこと?」 「ああ」 「なんで俺の事を?」 「出会った日から好きだったんだと思う。あの時は面白いやつだなって思ってただけだったけどな」 ―――― 出会ったのは、入学式の日。 式の時から、飛び抜けて見た目が怖いな……近寄らないでおこうと考えていた。 だが、席が隣で、関わらずにはいられない位置。 声をかけなければいいかと思い、前を向いていると、凛の方から声をかけてきた。 「おい、お前」 俺の方を向いて声をかけていたが、俺は前を見ていたから気づかなかったし、声をかけられるとは思っていなかった。 「無視かよ、桜木恋」 「はいぃ!?」 変な声が出てしまう。 「ぷっ、なんだよ。その声。最初から名前呼ばなかった俺も悪いけどさ」 そうだよ!最初から名前で呼んでくれれば、分かったし、こんな返事しなかった、と思う。 むっとしていると、名前をからかってきた。 「女みたいな名前」 「……!」 それを!いわなくても!いいじゃん! 気にしていることをわざわざ。 嫌な奴と思ったら…… 「俺はその名前好きだけどな」 下げて、上げるのやめて欲しいんだけど! 俺にとっては最悪の出会いだ。 今となっては、親友と呼べるまでになっているけど、今それが揺らいでいる。 ―――― 「……そんなことで?」 もっと、何か決定的な出来事があるのかと予想していた。 「まあ、それだけじゃないけど。出会った日から恋を知る度どんどん好きになっていった。それに、好きになるのに理由がいるか?なんとなく好きだなーとか思ってしまったんだよ」 真っ赤になって、好きな理由を語ってくれる凜。 なるほど。 「えっと、ありがとう? だけど、凛の気持ちには答えられない。ごめんなさい」 「……好きな奴でもいるのか?」 「いや、いないけど」 俺は失敗してしまった。 ここでいるといえば凛は引き下がってくれたかもしれないのに。 「なら、付き合おーよ。仮で。恋が俺を本気で好きになったら、本当に付き合おう」 「ちょっと待って!付き合う!?」 「だから、仮だって。恋が俺の事そういうふうに見てないのわかるし。一週間だけ。それで振り向かなかったら諦めて親友に戻る。……嫌だけど、そうする」 「断ったら……?」 「親友解消だな。絶交だ。俺のわがままで悪いと思ってる」 「……分かった、一週間ね。付き合う(仮)ってことで」 勝手だけど、凛ともう遊べなくなったり、話せなくなってしまうのは嫌だ。 絶好なんていわれてしまったら、俺は。 一週間、仮で付き合うだけだ。 凛には悪いけど、その後、約束通り親友に戻ってもらう。 「覚悟しとけよ、絶対惚れさせる」 「……!悪いけど絶っっ対に惚れないからな!先帰る!」
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