自覚

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自覚

翔義兄に彼女が出来たとき、俺は少し残念に感じていた。 彼女がいた姿は見る限り1度もなかったから、初めてのことで動揺していた。 動揺する理由は自分がブラコンだからなのかもと思ったし。 けど、今日のでそれは違うと確信した。 「大事な彼女だからね」と翔義兄の口から聞いた時のもやもや感。 その後、決定的だったのが倒れそうになった赤坂さんを翔義兄を抱き留めた瞬間。 嫉妬で頭がいっぱいになった。 これは……恋、かもしれない。 恋なんてしたことないし、よく分かんないけど。 名前を付けるとしたら、やはり恋だ。 あ~~~!何で翔義兄に恋しちゃったかな、自分。 義理とはいえ家族なのにさ。 そもそも彼女がいる男を好きになるってどうなんだろ。 俺の初恋は自覚した瞬間に終わっている。 翔義兄には大切な彼女がいるから。 初恋は叶わないって本当なんだな……。 ってなるかーーー!!! 初めて抱いたこの気持ち、絶対伝える! 両思いにならなくても、気持ち悪いと思われてもね。 と決意するが、いざとなると緊張しそう。 気持ちを伝えてくれた凛がいかに凄いかわかった。 相手に気持ちを伝えるって、難しいんだと。 ……凛のことはもう結論が出ている。 日曜日で付き合う(仮)、最後にしよう。 やはり、凛とは親友でいたい。 国語の授業中ずっとそんなことを考えていたせいか、先生に当てられても答えることが出来なかった。 先生は少し驚いていた。 成績や地頭の良さは別として、真面目で通っているから。 授業は今までちゃんと受けていたから、当てられても大抵答えていた。 得意の国語は特にね。 だからだろう。 放課後。 凛の席へ行くと、暗い面持ちのように見えた。 俺に気づくとぱっと表情を変える。 「……大変だったな!恋が女生徒を助けたって聞いて驚いた。すげーじゃん」 「偶然近くにいたからだし、助けたって程のことしてないって。そっちはこってり絞られたんだろ」 「まあなぁ。このピアスは外す気ねーけど…髪で隠すか」 「髪、黒くすんの」 「あー日曜日でも染めに行ってくるわ。から、日曜日のデートなしで!」 笑って言う凜。 日曜日のデートが無くなったなら、今日言おう。 夕日の照らす道を歩く。 趣味のゲームの話をしてから、タイミングを見計らって切り出す。 「俺さ、やっぱり凛のこと親友以上には思えない。翔義兄のことが好きになったんだ」 凛が足を止める。 気づいて俺も足を止めて振り返ると、凛が一筋の涙を流していた。 「あ~~!悔しいっ!薄々そうじゃないかと思っていたけど、心の、準備が、うっ、出来てなかった!そんなハッキリと今言われる思わなかった!」 凛が顔を手で覆い、気持ちを吐き出す。 「ごめん」 「……親友に戻れそーにないんだけど」 「約束したじゃん、待ってるから」 「~~~っ。振ったこと、後悔させてやるからな!先帰ってろ、馬鹿!」 無言で先を行く。 これが多分最善。 俺は好きな人が翔義兄だと分かったから、思いを伝える。 凛にはいくら時間がかかってもいいから、気持ちの整理が着き次第親友に戻って貰う。 うん、これでいい。 意外と強欲なんだと知る。 思いはちゃんと伝えたいし、親友は取り戻したいし。 翔義兄に振られたら、まあその時はその時だ。 いつまでもこの思いを抱えて生きていくだけ。 翔義兄に振り向いてもらえるまで、ね。 帰路に着く。 今日はまっすぐ家に帰っていたのだろう。 翔義兄の靴があった。 もう1つの靴は…女物。 「翔くん、彼女連れてきたのよ~」 丁度母さんが嬉しそうに言う。 「そうなんだ」 彼女…赤坂先輩だよな。 胸がチクリと痛む。 告白しようと思ったけれど、邪魔は出来ない。 翔義兄が部屋から出てきた。 「ただいま」 「……おかえり、恋」 「赤坂先輩来てるんでしょ」 「うん、飲み物持ってこようと思ってね」 廊下で立ち話をする。 すれ違いざまに 「俺さ、翔義兄のこと恋愛対象として好きだから。覚えておいて」 そう告白する。 返事も聞かず、自室に戻る。 返事は要らない。 どうせ振られるに決まっているから。 「え」 固まった翔義兄を残して、1人でスッキリした気持ちになっていた。
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