背中を押す

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赤坂雫(17)です。 まさか水をかけられるとは思っていませんでした……。 まるで漫画やアニメみたいじゃないですか~!と1人で興奮していたところに、男子生徒が助けに入る。 男子生徒は自分の上着を被せてくれる。 なんと王道な。 現実にこんな事が起きるなんて、いいネタになります。 男子生徒の顔をよく見ると、私のもう1人の推し桜木恋組んだということが判明しました! 私ったら何故すぐ気づかなかったのでしょう。 その後、保健室へ一緒に行き、体操着を持ってきて貰うことになりました。 推しに持ってきて貰うなど申し訳ないです……。 すぐに体操着を持ってきてくれました。 桜木恋くんの義兄である翔くんも一緒に。 推しカプが目の前にいる……その事実にくらりと目眩がしてしまいました。 咄嗟に桜木翔くんが支えてくれました。 まるで王子様みたいですよね? 桜木恋くんとほんと~~~にお似合いだと思うんです。 そんなことを考えていた私は気づきました。 言動と表情から察するに今桜木恋くんに嫉妬されていると。 抱き留められたこの状態を見て。 ようやく……!ようやく……! 両思いへの道が開けました!!! すれ違ってばかりの2人にやきもきしていましたが、付き合うのも時間の問題では?と。 あ、1つ気がかりなこと。 それは偽の彼女である私の存在。 邪魔になってはいけない! すぐにでも別れを切り出さなければ! 保健室で寝ている間、ずっと考えていました。 どのタイミングで別れを切り出すか。 結論。 放課後、家まで送って貰った後にそろそろ偽の彼女を終わりにしていいですか、と言う。 帰り道の途中で言うのは、後が気まづくなるから困るので。 私は、聖地に来ていました。 桜木翔くんのお詫びをさせてという言葉からの、家へお呼ばれをしたのです。 葛藤しました……、けど断るなんて選択肢は存在しなくて、はいと勢いよく答えてしまったのです。 心の中で拝みながら足を踏み入れました。 ここが推しカプの住んでいる家……感傷に浸ります。 桜木さんのご生母様からはなんと彼女と勘違いされてしまいました。 恐れ多い……と思い、否定しようとしたのですが、今は偽の彼女だったのだと思い出し、曖昧に肯定しました。 桜木翔くんの部屋に入り、ドアに近いところに座ります。 そうすると、飲み物を取りに行った桜木翔くんと桜木恋くんの声が微かに聞こえてくるではありませんか。 ドアに引っ付き、耳を立てていました。 私にははっきりと聞こえました。 恋くんが告白したのを。 やっと…! あとは私から別れを告げればいいだけ。 と考えていると、ドアが開く。 あ、この状態はまずい。 倒れ込んでしまった。 「大丈夫!?」 「だ、大丈夫…、ごめんなさい」 「何してたの」 実は会話を盗み聞きしてました……なんて言ったら怒られるでしょうか。 もう、全て話してしまいましょうっ! 下手に取り繕っても不自然ですし。 「えーと、訳があって……話を聞いてくれる?」 桜木翔くんが飲み物を載せたトレーを机の上に置く。 「うん」 私は正座をし直す。 「……隠してたことがあって、実は私腐女子なのっ!」 「……それはそうかなとは思ってた」 「えっ、何故!?」 溢れる腐女子オーラのせい? 「参考書を買いに行く時に、赤坂さんがBL本を購入しているのを見たから……」 「……!」 マスクだけでは隠せなかったのですね……。 今度はもう少しアイテムを足しましょう。 「そ、そうだったんだね。うん、腐女子なの。それで、現実の推しカプは桜木義兄弟なんだ」 「推しカプ……?推しているカップルのこと?」 「そんな感じかな。私が偽の彼女になったのは、翔くんと恋くんの恋を見守りたかったというやましい理由からで……」 桜木翔くんが驚く。 「えっ!じゃあ、俺の好きな人が恋だってこと知ってる……?」 「うん……。ついでに言うと恋くんの好きな人が翔くんだってことも知ってる。告白も聞いたので」 沈黙が流れます。 流石に引かれましたかね……。 BL小説のネタにしてたくらいだし。 「そうだったんだね」 「はい……」 「俺、恋愛には奥手というか……だからかな。赤坂さんにも迷惑かけてしまって、ごめん。赤坂さんが別に良いと思っていたとしても事実は変わらないし。それから、偽の彼女をしてくれてありがとう」 「いえいえっ、恋くんの気持ちに応えてあげてね。2人には幸せになって欲しいから」 「自分の気持ちを素直に伝えるよ。赤坂さんに背中を押してもらったことだし。本当にありがとうね」 桜木翔くんはスッキリした顔をしていました。 憑き物が落ちたようなそんな顔。 神様!私は立派な当て馬になれましたか?
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