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祝福
「義父さん何してんのっ!大丈夫?翔」
俺は声を上げるが、怒っている義父さんに俺の声が耳に届いていないのか、無視。
「どうしたのっ!」
意気消沈していただろう母もこの騒ぎには気づいたようで、皆が集まっているリビング入ってきた。
翔の打たれた頬と怒っている義父を見て、状況を把握したのか、一息ついた後に口を開く。
「……手当てするわ。理久さん、落ち着いて」
「……後でいいよ。それより話を」
「「良くない!」」
俺と母さんの声がハモる。
流石親子と言えばいいのか。
考えることが似ているかもしれない。
それにしても、普段怒ることのない温厚な義父がとは珍しい。
どんな事情があろうと翔にした事は許せないけど。
母さんの言葉で落ち着いたのか、椅子に座る。
俺と母さんの手で強制的に手当される翔を見ずに話し始める。
「……翔は幼い頃から家でも学校でも恋愛沙汰で揉めることが多かった。最初翔が悪いとは勿論思っていなかったが、相手の話も聞いているとこちらにも非があったのでは、と思うようになってきて……。翔は相手を誑し込んでいるんだと。誰を責めればいいのか、わからなかった。母親が出来れば、変わるのかと思ったが、結果警察が出てくることになり、もう諦めていた。そんな時、咲さんと出会ったんだ。咲さんと恋くんとは上手く付き合えている、そう思っていたのに……」
義父は握っていた拳を強くする。
「「「……」」」
沈黙がこの部屋を包む。
うん、義父の気持ちは分からなくもないけど、だからって翔のせいにするのは良くない。
それは言わないけれど。
多分、義父もよく分かっているはずだから。
「……いつも何で再婚を繰り返すのか、意図が分からなかったけど、今理由を聞いて何となく分かった。……俺が普通じゃないから、母親を求めたんでしょ。でも、義父さんが愛してくれれば、それで十分だった。……俺が嫌い?」
重い雰囲気の中、翔が義父と向き合う。
「嫌いなわけない!ただ、恋くんへの異常な執着を見せていたと思ったら、付き合っていると言うし……翔が何かしたのかと思って、手を出してしまった。……それはすまなかった」
親子の会話に口を挟むのは躊躇われたが、事実を伝える為口を開く。
「翔は何もしてない。告白は俺からだし。翔はずっと想っていてくれてたみたいだけど、俺のことを諦めようとしてたくらいだし。だから誰も悪くない」
俺の言葉を聞いた義父は目を少し見開く。
「そう、なのか。今2人は幸せか」
急な問い掛けに顔を見合わせそれぞれうん、と返事をする。
「そうか、良かった。……なら、私は2人の恋を応援できるよう努力する」
「あなた!」
「咲さん。……今まで信じられなかった分、信じたいんだ。翔のこと」
「……!」
翔の目が見開かれる。
「貴方がそう言うなら……でも、私は受け入れるまで時間がかかるわ」
「……うん、分かった」
向き合ってくれて、受け入れようとしてくれて……嬉しい。
「翔、色々口出しはするから。まだ2人とも未成年なんだし、条件も付けさせてもらう。母さんと2人で話し合いたいから、2階に行ってなさい。」
部屋を出る際、翔の背中越しに義父さんが言う。
「……おめでとう」
「……うん」
翔は頬に涙を流していた。
義父に祝福の言葉を貰えて、やはり嬉しいのだろう。
本当に好きな人と両思いになれる確率って低いと思う。
そんな中で俺は翔を好きになって、両思いになったんだ。
親とも一応和解できたし。
奇跡的なことだ。
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