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教育実習生
「ひど~い、凛のことは特別なのになぁ」
「あのなぁ」
凛が口を出そうとするとチャイムが鳴った。
話を中断して教室に駆け込む。
うげ、先生もういるじゃん……。
また叱られる、と思った。
「はぁ、早く席に着け」
あれ?叱られないってことは、何かあるのかな。
口々に返事をして席に着く。
「今日から教育実習生が1人来ることになった。入って」
「九重梓です。今日から2週間よろしくお願いします」
まじか。
転校生の次に教育実習生って、せわしないな。
瑠衣の時には男子がざわめいていたが、今度は女子がざわめく。
容姿端麗だったからだ。
天然なのかパーマのかかった髪にこげ茶色の目。
チャラそうな見た目。
「「はあ!?」」
声を上げたのは凛と瑠衣だった。
九重先生は2人に対して満面の笑みを見せる。
「久しぶりですね、2人とも」
「「……」」
2人は苦い顔をして背ける。
知り合いなのは分かるが、関わり合いたく無い様子。
「海崎たち知り合いだったのか。色々教えてやってくれ」
「お願いします」
ぺこりと頭を下げる九重先生。
優しくていい人そうに見えるんだけどな。
放課後。
凛と瑠衣、九重先生、それから何故か俺が案内することになった。
何で関係の無い俺が……、それに貴重な放課後が……。
それもこれも、俺もと指名した九重先生にある。
「初めまして、桜木恋くん」
もう覚えたのか、偶然名簿を見たのか、名前を呼ばれる。
「はあ、初めまして。俺、帰っていいですか?案内には凛と瑠衣がいるし……」
「ダメです。貴方がいるとより面白くなりそうなので」
面白そう……?意味がわからない。
優しくていい人そうという第1印象は早くも崩れかけている。
「恋は関係ねぇだろ!九重」
「寂しいですね、幼い頃は梓くんと慕ってくれていたのに」
「慕ってねーし!名前はお前が言わせたんだろ」
あの犬にしか怖がらない凛が怖がっていながらも、九重先生に対して歯向かっている。
それに何を思ったのか九重先生が凛に近づく。
あの瑠衣が止めてくんないかな。
人頼みで悪いけど、怖い面がある瑠衣が一言いったら済むと思う。
瑠衣の方を見ると、顔を青ざめて立ち尽くしていた。
仕方ない、凛の前に立つ。
「凛が嫌がってます。これ以上近づかないでください」
「恋くん?貴方は関係ないでしょう」
「関係あります!俺は凛の親友ですから!」
親友が怖いと思っている相手からは俺が守るし。
って言っても、まだ凛とは親友に戻れてないのかもだけど。
それでもいい。
俺が親友だと思っているだけ。
「恋……」
「なるほど。分かりました。今日はもう帰っていいですよ。案内の続きはまた明日にでも」
案外あっさりと解放して貰えた。
すれ違う際、九重先生が凛の耳元で何かを話す。
「桜木恋……あなたの好きな相手ですね。これから楽しめそうです」
「なっ!」
ぼそぼそと話していたので聞こえなかったが、凛の腕を引っ張り玄関へと行く。
どうせいい内容じゃないことは凛の表情を見れば分かる。
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