自問自答

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自問自答

恋と一緒に帰る予定で帰り支度を素早く済ませ、恋のいるクラスへ向かう。 一番後ろの窓際の席にいるのがすぐわかる。 近くには、見知らぬ男子。 赤髪にピアス、恋とは対照的に派手な見た目をしている。 なにやら、仲睦まじく話しているようだ。 俺以外の人に笑顔を向けている。 その事実に、今まで苛立ったことはなかった。 恋を愛している、そう自覚したからかもしれない。 すぐ家に連れ帰りたい。 あの男から恋を引きはがしたい。 「恋、迎えに来たよ」 そう声をかけると、恋は大変驚いた顔をしていた。 まるで俺が来るのを望んでいなかったみたいじゃないか。 もしかして、俺を置いて帰るつもりだったのかな。 そんなの許さないからね。 「もう帰りだよね」 「そうだけど……今日は凜と帰るから」 凛、ああ恋と親しく話していた赤髪の男か。 「ということで帰ってもらえますか、先輩?恋のことが心配なら俺がちゃーんと送り届けますから」 恋が言った凛という男が出しゃばってくる。 この男の恋を見る目は熱を帯びているので、恋愛感情を持っているのだと今ならわかる。 気に入らない。 「ああ、全然きづかなかった。ごめんね?」 自分でも思っていたより冷たい反応を返してしまった。 「翔義兄さん、最近なんかおかしいよ。俺、凜と帰るから!」 どうやら恋を怒らせてしまったらしい。 凜という男の腕を引っ張って早歩きで玄関に向かう。 俺よりその男を選ぶのだと思い知らされると、目の前が真っ暗になった。 恋が行ってしまう。 反射的に呼び止めるが、恋は振り向かず、人ごみに紛れその姿が見えなくなった。 仕方がないので、俺は家に帰り恋を待つ。 待つ間に考えていたこと。 恋をいかにして自分なしでは生きられなくするか。 今までのままじゃ何も変わらない。 うざがられても甘々に甘やかす。 目標は、俺に依存してくれることかな。 もし、恋と両想いになれたら、どれだけ幸せだろう。 でもこんな俺を恋は愛してくれるとは思えない。 うざがられても、嫌われても、恋のそばにいたいし、束縛したいという決して綺麗ではない感情。 恋は6時くらいに帰ってきた。 「恋、今日はごめんね」 「……ううん」 とりあえず謝る。 恋を束縛してごめんね、とは思っているけど、直す気はさらさらない。 申し訳なさそうに謝る俺を見て、恋は絆されたのか、首を横に振る。 ダメだよ、恋。 そんな簡単に許しちゃ。 許して貰うまで誠意を見せるつもりだったけれど、恋は俺が思っている以上に優しいのかもしれない。 あの凜という男は、この優しさに付け入ったのかな。 ああ、腹が立つ。 「翔義兄、凛のことやっぱり嫌い?」 上目遣いで聞かれる。 可愛い。 やっぱりということは、俺の態度が嫉妬しているように見えたからだろうか。 「ほら、翔義兄って生徒会長でしょ。ああいう生徒見過ごせないんじゃないかなって」 そういうことか。 恋は俺が凛に嫉妬していると今のところは思って無さそうだ。 「そうだね。一応、生徒会長だし。でも、恋の大切な友達なんだよね?だったら、今度からは酷い態度をとらないよう、気をつけるよ」 恋の前では。 心の中でそう付け足す。 「翔義兄……いつもありがと。優しいよね」 「そんなことないよ」 逆に恋の方が優しすぎて心配になる、と呟くと、 どこが、と笑われた。 恋の笑顔につられて、こっちまで一緒に笑う。 まあ、心の底からは笑えないけど。 すごく心配だしね。 「ねえ、恋。一緒に勉強しようよ。 もうすぐ期末でしょ」 「うぇー、翔義兄は偉いな。いつも学年トップだし、そのくらい努力しているってことか」 うんうんと納得するように頷く恋。 「恋は俺が努力しているって言ってくれるんだね。嬉しいよ」 「俺だけじゃないと思うよ。努力している翔義兄を凄いなーと思っている人は」 そうなのだろうか。 恋にそう言われるとそんな気がしてくる。 誰にも言われたことはなかったな。 「天才だから」 そう言われるのが常で、努力をしていたとしても、その言葉にかき消される。 努力が褒められないのは、当たり前だと思っていた。 だけど、恋は凄いと褒めてくれた。 「ありがとう。恋は俺を喜ばせることが上手だね」 「そうかな、このくらいの事で翔義兄が喜ぶなら、何回でも言おうかな、なんて」 ふふふっと照れくさそうに笑う恋。 可愛いなぁ。 今更になって思う。 こんな純粋な恋に俺の歪んだ愛を受け入れてもらえるのか。 受け入れられたとして、純粋な恋を汚してしまうのではないか。 自分の中で迷いが生じてきた。 勉強しようとか言っておきながら、全く別のことをしようとしている。 あわよくば、そういう雰囲気を作って無理やりにでも、と考える自分がいる。 俺のように穢れた人間がそばにいていいのだろうか。 「どうしたの?翔義兄。顔色が悪いけど……大丈夫?」 心配そうに見つめてくる恋。 「いや、少し頭が痛くなってきて……。勉強しようってこっちから言ったのにごめんね」 「ううん、ゆっくり休んでほしい。また今度、一緒に勉強しよ」 「本当にごめん」 「そんな謝る程の事じゃないって」 本当にごめんは、穢れた俺が恋のそばに居ることを申し訳なく思って出た言葉だ。 言葉を交わした後、自室のベッドに倒れ込む。 俺は恋が好きだ。 恋愛対象として。 この気持ちは、恋にとって良くないものでしかない。 俺なしでは生きられなくしように甘やかそう、と考えていた。 無理やりにでも、奪ってしまいたいと思っていた。 一旦、恋と距離を置こう。 近すぎてよく分からなくなっているのかもしれない。 そうだ。前の程よい距離感でも充分じゃないか。 恋が生きているだけで、俺の生きる意味に繋がるのだから。 恋や愛だと自覚した途端に強い嫉妬、独占欲を知ってしまった。 引き返せるのか、俺は。
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