多分

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多分

翔義兄はベットに横になっている。 頬は火照り、息が荒い。 こんなに弱っている姿を見るのは初めてだ。 近頃変な様子だとは思っていたけれど、こんな事になるなんて思わなかった。 ここまで追い詰められているなんて知らなかった。 「うっ」 うなされているようで途切れ途切れに声を漏らしている。 翔義兄に手を包み込むように握る。 「大丈夫」 少しでも安心出来るようにと声をかける。 「…恋?」 「そうだよ」 「…みっともない姿ばかり見せてる、俺」 へこんでいるようだ。 でも、俺は… 「人間らしくてそっちの方が好きだよ」 元からスペックは高いが、その上に努力もしていて、弱いところを見せない翔義兄。 最近は思い悩んだりして自己管理が出来なかったりと。 こう言っては失礼だが、同じ人間なんだと安心する。 身近に翔義兄を感じる。 「っ!…ずるいよ、恋は」 「どこが」 「無自覚に人を誑かすところ」 「誑かしてなんかないって」 「ほら、あの凛って奴も」 「っ!寝てろ!」 ここで凜の名前を出されるとは。 凛とは付き合う事になったんだった。仮でだけど。 それにしても翔義兄。 熱で子供っぽく、口も饒舌だ。 「…ごめん、困らせたいわけじゃない。ただ、好きなだけ」 「はいはい」 どのくらいの重さの好きなのか、分からずに流す。 ただの家族愛だと決めつけて。 「…わかってないね、恋は」 分かりたくない。 今日、告白した凛の目と一緒。 熱を孕んでいるなんて。 多分、おそらく、翔義兄の好きな相手は、俺。 勘違いや間違いだったら、すごく恥ずかしいけど、これなら最近のおかしな態度も説明がつく。 聞いてみる? …熱が引いて、全快したら、聞こう。 そして、万が一、俺のことが好きなのだったら、翔義兄にちゃんと向き合わないと。 「明日も学校だから、自分の部屋で寝てきて。何かあったら義母さん呼ぶし」 「…分かった」 看病したいって言ったけれど、本当に傍にいることしか出来なかった。 しかも、翔義兄の好きな相手が俺だろうということまで知ってしまった。 あの『好き』という言葉が今でも耳に残っている。 翔義兄のことを考えていると中々眠りに付けなかった。 まあ、それでも朝はやってくるのだけど。 ああ、眠い。 眠気を堪えて授業を受けていた。 朝は遅刻ギリギリだったし。 だというのに… 昨日の今日で翔義兄は全快していた。 遅刻せず学校にも来て、授業を受けているところだろう。 ああ、イライラする。 俺がこんなに翔義兄のことを考えているのに。 翔義兄は本当は俺の事大して想っていない? 「おはよ!遅かったな~」 「あ?」 「…不機嫌そうだな。眠れなかった?俺のせいで」 ニヤリと顔を緩めて聞いてくる凛。 そうだった、告白されて付き合っている(仮)んだった。 適当に答える。 「そうだよ」 「…マジか」 真顔を真っ赤に染めていた。 え?ちょっと待って。その反応は反則…。 今更適当に答えました~、なんて言えない。 話題を変えよう。 「凛、昼もう買った?」 「あっ!はやく買いに行かないと!」 購買のパンは売り切れることが多々。 ちなみに俺は母の弁当。 凛の家は、母子家庭。 母親と折り合いが悪く、月のお金だけ渡されるそう。 凛が帰ってくる。 表情が暗い。 「…買えなかった」 「分けて食べよ」 「…!俺たち付き合ってるんだから、あーんして」 「はいはい」 付き合っている(仮)だからな。 幸せそうにもぐもぐと食べる凛。 凛は表情がクルクルと変わるよな。 そこが結構好きだったりする。 分かりやすくて。 「そーいえば、さ。翔先輩、彼女出来たっぽい」 「はあ!?」 驚いて大きな声を出してしまい、注目される。 「窓から見える。ほら、あそこ」 …あ。 綺麗な女の先輩と弁当を一緒に食べている。 翔義兄、女の人といる所全然見ないのに、彼女? 木の影に隠れてよく見えないが、2人の距離が近づいて… 「こんな所でキスするとか、やるじゃん」 「そうと決まったわけじゃ」 と言いながらそうかもと思っていた。 翔義兄は俺のことが好きじゃないんだ。 ただの勘違い。 なんだ…。 紛らわしいな、本当に。 なんで、少し残念なのだろう。 もしかして、俺ってブラコン?
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