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09. 取り壊し
クリスマス明けの月曜日、いつも通りの時間に出勤した凪がデスクに向かう。
すでに数人の社員の姿が確認できていて、その中の一人である篤人も自分のデスクで仕事を開始していた。
本当は昨日ぶりの二人だったが、ふと視線が合うと互いに何食わぬ顔で朝の挨拶を交わす。
「八乙女さん、おはようございます」
「おはようございます」
「素敵な腕時計ですね」
「っあ、ありがとうございます……」
凪の細い腕に光る真新しい腕時計に気づいた篤人が、わざとらしく褒めてきた。
少し狼狽えながらも応えた凪は、軽く咳払いをして席に着く。
自分がプレゼントしたにもかかわらず、今初めて見たようなリアクションはさすがだなと思いながら。
きっと、身につけて出勤してくれたことにちゃんと気づいてるよ、というアピールでもあったのだろう。
しかしここは職場であり、上司と部下の関係でいなくてはいけない二人のやりとり。
周囲の目を気にして、凪は気持ちを切り替えようとしていたけれど、にやけ顔が我慢しきれていない篤人が目の前にいて。
つられて顔が緩んでしまいそうになった。
その時、二人の上司である佐渡部長がいつもより低いテンションで声をかけてくる。
「瀬山、おはよう」
「佐渡部長、おはようございます」
「八乙女も出勤していたか」
「おはようございます」
神妙な面持ちで二人のデスクの間に立ち止まり、凪と篤人を交互に見てため息をついた。
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