09. 取り壊し

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 しんと静まり返る会議室。  残された凪は、今の話を聞いても狼狽えることなく。  むしろ余裕の表情を浮かべている篤人が気がかりだった。 「……もしかして、取り壊されるの知ってた?」 「まあ、社宅を縮小する話は以前から出ていたから予想はしていたよ」 「だからそんなに驚いてなかったんだ……」  やはり平社員の凪は知らなくても、肩書きのある人間には何となく予想ができていた取り壊しの件。  だったら事前に知らせてくれても、と思ったけれど。  決定事項でない限り簡単に情報を漏らすわけにはいかないことも凪は理解はしているから、口先を尖らせるに留まった。  しかしアパートがなくなるということは、  現在隣同士の部屋で何不自由なく逢瀬を繰り返せている篤人とも、離れ離れになってしまうということだ。  確かに造りは古いし至る所が傷んで限界は感じていたけれど。  あの場所で初めて篤人に出会ったせいか、跡形もなく消えてしまうのはやはり寂しさを覚える。  すっかり肩を落としてしまった凪を横に感じながらも。  それには触れずに、篤人は優しく声をかけた。 「今日、仕事終わったら凪の部屋行っていい?」 「え? う、うん……」 「ありがとう」  凪の許可が下りて、仕事中であることを忘れ嬉しそうに微笑む篤人が髪を撫でてきた。  イブだけでなく、昨日のクリスマスも一緒に過ごしていた。  それなのに、更に今日も惜しみなく時間の共有を求めてくる恋人に、凪の心は徐々に穏やかになっていく。  引っ越しの件は、また後でじっくり話し合おうと気持ちを切り替えられた凪は。  篤人に微笑みかけると、共に会議室を出て仕事に戻っていった。
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